SSブログ

ワイルドローズ党のスミス党首ら進歩保守党に移籍、二大政党制に幕 [アルバータ]

image.jpg

 日本に「きのうの敵は今日の友」という諺があることを、二人はおそらく知らなかっただろう。アルバータ進歩保守党のジム・プレンティス党首とワイルドローズ党のダニエル・スミス党首は、12月17日に共同記者会見を行い、ワイルドローズ党の議員9人が進歩保守党に入党したと発表した。
 移籍したのは、ダニエル・スミス党首、ロブ・アンダーソン院内幹事長、ゲイリー・ビックマン議員、ロッド・フォックス議員、ジェイソン・ヘイル議員、ブルース・マカリスター議員、ブレイク・ペダーセン議員、ブルース・ロウ議員、ジェフ・ウィルソン議員の9人である。これによりアルバータ州議会の勢力は、進歩保守党72、自由党5、ワイルドローズ党5、新民主党4、無所属1(定数87議席)となった。
 プレンティス首相は、次のように説明した。
「はっきりさせておきたいのだが、これは党の合併ではない。これは、進歩保守党による保守糾合である。」
 スミス前党首がプレンティス内閣で何らかの閣僚ポストに就くと多くの人々が予想するなか、首相は近い将来の内閣改造を否定した。
 スミス前党首は、プレンティス首相の政策がワイルドローズ党に非常に近いので、移籍することにしたと説明した。またほかの8人の議員は、「調整された政策と主張」に合意した後に移籍を決めたと語った。移籍に関する協定の中には、州消費税は導入しない、均衡予算、患者が選択する健康保険など、ワイルドローズ党が選挙で主張してきたいくつかの方針が採用されている。
 記者から、移籍を支持者にどう説明するのかと尋ねられると、スミス前党首は「勝利」をことさらに強調した。
「我々は勝利した。我々はワイルドローズ党を政治の主流に動かし、アルバータ州を動かす肯定的な力とした。」
 彼女は2009年10月にワイルドローズ党党首に就任してから、4人の州首相と関わってきた。エド・ステルマック、アリソン・レッドフォード、デーブ・ハンコック、そしてジム・プレンティスである。だが彼女は、実際に会って話したのはプレンティス首相だけだったと語った。
「それ以前の州首相は、単に社交辞令を言うだけだった。正しいことを口にして、それからその正反対のことをした。」
 彼女はプレンティス氏が9月に党首に就任したときから、進歩保守党への移籍について話し合っていたと明らかにした。そしてその動きは、ここ2週間で激化したという。
 プレンティス首相は、スミス党首ら数人の議員を受け入れることについて17日に会議で検討したが、長い議論の末の決定は全会一致でなかったと明かした。というのは、ほんの数週間前にプレンティス首相が補選に出馬したとき、ワイルドローズ党は激しいネガティブ広告を流したからである。
 しかしアリソン・レッドフォード前首相の辞任以降、両党は急速に接近した。党内左派のレッドフォード氏は、首相に就任すると中道寄りの政策を志向し、右翼のワイルドローズ党は危険だと有権者に訴え続けてきたからである。
 プレンティス首相は、ワイルドローズ党議員たちを受け入れることで党を右傾化しようとしているという憶測を否定した。
「我々は進歩保守党を、これら9人の議員を収容できる幅広い勢力として維持していく。」
 いっぽうレッドフォード前首相の側近スティーブン・カーター氏は、今回の動きについて、ローヒード元首相がもたらした進歩保守党の価値の終焉だと非難した。

 プレンティス首相は、合併またはそれに類する事案について幹部会で投票を行うと語った。またスミス党首は、党に提出した辞表の中で、党員による会議を開催し、合併について協議するよう依頼したと明かした。
 カリスマのスミス党首を失い、わずか5議席に転落したワイルドローズ党は、いまやただの時代遅れの田舎者政党であり、元の木阿弥の泡沫政党である。だがワイルドローズ党のデーブ・イェーガー代表は、党は野党として存続すると明言した。彼は「進歩保守党には、一つのことを言ってから違うことを行う伝統がある」と述べ、進歩保守党の今後の動きに懐疑的な態度を示した。
 ワイルドローズ党議員の1人は、2015年に引退することを表明している。いっぽうアルバータ自由党議員の2人は、2015年に実施される下院選挙で連邦自由党から立候補するため、州会議員を辞職する意向を述べている。わずか5人となったワイルドローズ党は、院内活動のためアルバータ自由党との連携を模索している。アルバータ自由党のラジ・シャーマン党首は、州議会議長に自由党を公式野党にするよう要請した。

 マキュワン大学で政治学を教えるジョン・ソロスキー教授は、今回の動きをカナダの政治史上前例がないと評した。
「私は、政治家によるこれほどの完全勝利を、いまだかつて見たことがない。我々はこのアルバータで、ここ40年間における最強の野党を持ったが、今回の決定でそれも潰されてしまった。今では巨大与党の前に、非常に小さな野党が存在するのを見るのみである。」
 アルバータ州は選挙で極端な結果が出やすく、連邦議会選挙でも2004年は2議席を除く全議席、2006年は全議席、2008年と2011年は1議席を除く全議席を保守党が獲得しており、このような状況が50年以上続いている。アルバータ州政治においても、進歩保守党が40年以上政権を握り続けているのみならず、与野党伯仲をここ100年間経験していない。
 スミス氏は党首に就任して瞬く間に、石油メジャーの資金援助も得て、泡沫政党を一躍有力政党の地位に引き上げた。この夏、進歩保守党党首選の前に実施された多くの世論調査でも、ワイルドローズ党はトップに立っていた。進歩保守党は相次ぐ不祥事で3人の首相が次々と辞任し、40年にわたる長期独裁政権の弊害が叫ばれてきた。だが10月の補選で全敗したとき、彼女はワイルドローズ党にいては未来はないと悟ったのだろう。彼女の野心はアルバータ州首相の地位のみならず、連邦保守党党首はては連邦首相まで目指しているとはよく指摘されることであるが、ワイルドローズ党はアンチゲイと人種差別に凝り固まり、都市部に支持を拡大できず、このままではアルバータ州政治を掌握することもおぼつかない。ここできっぱり党に見切りをつけ、進歩保守党政権のナンバー2に収まり、次の州首相の地位を手に入れてからさらに上を狙う方が賢いと、気づいたのだろう。だがアルバータの有権者が、この史上まれに見る変節を許容するかどうかは、定かではない。

 スミス前党首は11月24日、先に進歩保守党に移籍した2人の議員について、かつて進歩保守党から移籍して来たロブ・アンダーソン議員とヘザー・フォーサイス議員と比較し「ロブとヘザーは信念のゆえに、与党から野党に移った。2人は私利私欲からではなく、アルバータ州民に奉仕するため、権力の旨みを放棄したのだ。だが我々は今日、その正反対を見た」と痛烈に批判した。だがスミス前党首も結局与党に移籍したことで、彼女のfacebookは批判の声で埋めつくされた。
「あなたも結局は、有権者ではなく自分自身の利益を心配するもう一人のただの政治家にすぎなかった。」
「非常に恥ずべきことだ。あなたは辞職すべきだ。」
「あなたをこれまで支持してきたことを、後悔している。」
「あなたは勘違いしている。進歩保守党は、あなたを歓迎していない。彼らは、あなたを巧妙に黙らせたのだ。恥を知れ。」


写真:記者会見前に手を取り合うジム・プレンティス首相(右)とダニエル・スミス前党首(左)。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:地域

nice! 1

コメント 0

コメントの受付は締め切りました

トラックバック 0