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歴史は繰り返す:野党なきアルバータ政治は堕落する [アルバータ]

 強い野党を持たない政権は、必ず堕落する。アルバータはまたしても、同じ歴史を繰り返すのだろうか。
 ドン・ゲッティー首相は、アルバータ州の財政は天然資源に大きく依存しており、原油価格が安くなると州財政の均衡を保つことができなくなると気づいた。財政赤字は増大し、そしてアルバータはまたたく間に債務州になった。
 自由党のローレンス・デコア党首は、財政赤字特に政府からの融資を返済できない民間部門への介入を批判した。自由党の支持率は急上昇し、このままでは総選挙を戦えないと判断した進歩保守党は、ゲッティーを総理・総裁の地位から引きずり下ろした。そしてラルフ・クレインは、自由党の主張をほぼ丸飲みすることで党首選に勝利した。
 新たに首相となったクレインは、芸術と健康保険への補助金削減、市民病院の閉鎖と看護士の大量解雇、電話会社の民間への売却、酒類販売の民営化などを断行し、予算の均衡に努めた。これらの政策は、自由党による政権奪取の脅威なくしては起こり得なかった。
 だがクレイン首相が「大規模な」削減を実施したことに対し、自由党のデコア党首は「残酷な」削減を主張して総選挙に挑んだ。本来中道の自由党が、中道右派の進歩保守党のさらに右のポジションを志向したのである。カルガリー元市長のクレイン首相に、エドモントン元市長のデコア党首が挑んだ1993年総選挙は、いやがおうにも盛り上がった。そして自由党は、1917年に政権を失って以来最大の得票率39.7%を獲得し、進歩保守党の44.5%に肉薄したが、議席は進歩保守党の51議席に遠く及ばず、32議席に終わった。自由党は議会から新民主党を一掃し、26年ぶりに野党第一党に返り咲いたが、総選挙敗北の失意は大きく、デコアは翌年党首辞任を余儀なくされた。彼は5年後、癌のため59歳の若さで亡くなった。

 クレイン政権は十数年間、安定的に続いた。だが政権交代の脅威がなくなると、進歩保守党政権は迷走を始める。支出は増大したが、原油価格も高騰したため、問題はないように見えた。
 2006年に首相に就任したエド・ステルマックは、歳入増大を図り石油と天然ガスのロイヤルティを上げようとした。だがそれは石油メジャーの不評を買い、泡沫右翼政党ワイルドローズ党への支援につながった。すると進歩保守党の伝統にのっとり、ステルマックは党内抗争で引きずり降ろされ、党内左派のアリソン・レッドフォードに取って代わられた。そしてレッドフォード首相は、2012年総選挙で右翼のワイルドローズ党は危険だと訴え、勝利した。しかし彼女は、公金を私的に支出した件でワイルドローズ党の集中砲火を浴び、辞任に追い込まれた。
現在の首相ジム・プレンティスは、ワイルドローズ党の主張するあらゆる政策を丸飲みすることで、ワイルドローズ党それ自体をも丸飲みし、アルバータ政界から反対勢力の一掃に成功している。もしもワイルドローズ党が強力な野党でなかったら、この現象は起こらなかっただろう。

 アルバータ進歩保守党は日本の自民党のように、ニューライトから中道右派まで政策の幅が極端に広く、党首の評判が悪くなると党内抗争を起こして引きずり降ろし、別の党首を立ててその都度マイナーチェンジを行うことを繰り返して、長期単独政権を40年以上も続けている。いっぽうカリスマを失ったワイルドローズ党は泡沫政党に先祖返りし、自由党は終わりの見えない長期低落の泥沼にはまり、新民主党はこの保守的な州で労組と強く結びついている。
 政権交代の脅威が消えれば、進歩保守党は再び利益誘導と巨額の財政支出という悪しき風習に回帰することになるのだろうか。
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