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C-7号法案の「州で選挙された上院」、奇奇怪怪に

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 上院議員は、首相が指名し75歳まで務められる。議員は州を代表する建前だが、首相が指名することから、実際には党を代表している。
 C-7号法案は、上院議員の任期を9年とし、議員の指名に関し首相は「州と準州で選出された候補者のリストから考慮する」と規定している。上院議員選挙を州と準州で行ったのち、その当選者を首相が指名するなら、憲法改正は必要ないからである。

 そこでThe Globe and Mail紙が、直近の州議会選挙の結果をもとに上院の105議席を割り振ったシミュレーション結果は、非常に興味深いものとなった。
 上院の最大会派は、進歩保守党の27議席で、その内訳はオンタリオ9、ニューブランズウィック5、ニューファンドランド&ラブラドル4、アルバータ3、マニトバ3、ノバスコシア2、プリンスエドワード島1である。サスカチュワン進歩保守党とサスカチュワン自由党が合併したサスカチュワン党(4議席)と、ユーコン進歩保守党が改組改変したユーコン党(1議席)も、おそらくこの会派に入るだろう。
 連邦進歩保守党と連邦カナダ同盟が合併して成立したカナダ保守党は、連邦組織だけで地方組織がなく、地方の進歩保守党と提携している。よって上院進歩保守党は、下院のカナダ保守党とともに与党となるだろう。このほかケベック未来連合(7議席)、ブリティッシュコロンビア自由党(3議席)、アルバータのワイルドローズ党(3議席)の3つの保守政党も、連立与党を形成するものと思われる。
 最も強力な野党になりえるのは自由党の20議席で、その内訳はオンタリオ10、ニューブランズウィック4、ノバスコシア3、プリンスエドワード島3である。
 ケベック自由党は、連邦自由党との提携関係を解消している。同党議員の8名は自由党会派に入る可能性があるが、いくつかの政策ではむしろ保守党に近いだろう。
 上院新民主党は21議席で、その内訳はオンタリオ5、ノバスコシア5、ブリティッシュコロンビア3、マニトバ3、ニューファンドランド&ラブラドル2、サスカチュワン2、ニューブランズウィック1である。新民主党議員団は、上院でもっとも結束の固い会派となるだろう。保守党と自由党に比べると歴史があまり長くなく、他党との合併を経験していないからだ。
 ケベック党(8議席)とケベック連帯(1議席)は、どの会派にも属さず独自会派となるだろう。この2つの分離主義政党は、連邦議会に議席を持つ意味がなく、謎の存在となろう。ノースウェスト準州(1議席)とヌナブート準州(1議席)はどちらも政党がないため、議員は当然無所属となる。

 カナダは州ごとに異なる組み合わせの二大政党制となっており、カナダでは伝統的に連邦議会選挙と州議会選挙で異なる党に投票する人が非常に多い。たとえば2011年連邦議会選挙では、カナダ保守党はオンタリオ州・プリンスエドワード島州・マニトバ州で最も多くの議席を獲得しているが、同年の州議会選挙においてオンタリオ州とプリンスエドワード島州では自由党が、マニトバ州では新民主党が勝利している。
 2008年連邦議会選挙では、ニューファンドランド&ラブラドル進歩保守党が連邦保守党に造反し、“ABCキャンペーン(Anything But Conservative〔保守党以外どこでも〕)”を行って、同州の連邦保守党候補を全員落選させている。またニューファンドランド&ラブラドル進歩保守党とノバスコシア進歩保守連合は、2007年石油資源をめぐり連邦保守党を告訴している。
 カナダは東西に非常に広く、地域によって利害関係が異なる。よって同じ党名を称していても、州ごとに政策は微妙に異なり、また連邦党と対立することもしばしばある。そこで上院会派は、同じ党名を名乗る下院会派と対立することも大いにありえる。The Globe and Mail紙のシミュレーションは、あくまでもイデオロギーを軸に会派を想定しており、カナダ政治の重要なファクターである地域性は考慮されていない。
 上院で過半数を制する会派が成立することはほとんど考えられないし、成立したとしても連立がいつ崩壊するかわからない。党紀や党議拘束は、あってないが如しとなろう。
 現状の上院は、下院と同等の権限を持つ建前だが、選挙で選出されないため、下院の決議を覆すことはほとんどない。C-7号法案が想定する「州で選挙された上院」が下院と同等の権限を持つなら、連邦議会が何も決められない死に体となるのは必至だろう。そこで上院の権限を大幅に制限し、州の利害を代弁する上院が特定案件についてのみ拒否権を持つようにすれば、意味のある改革になるかもしれない。
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