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ハーパー首相の死刑容認発言が波紋 [保守党]

 各党党首が選挙区遊説を始め、冬の解散・総選挙が既成事実化しているが、もし解散があるとすればその原因は、法人税減税を含む予算案に対する野党の反対であろう。
 ハーパー首相は1月18日、CBCのインタビューで、たとえ保守党が過半数を獲得しても、妊娠中絶非合法化や長銃登録制廃止などの「右翼アジェンダ」を実行するつもりはないと語った。また個人的見解としては死刑を支持するものの、政策として死刑を復活する考えはないと明言した。

 カナダは1976年に刑事罰としての死刑を廃止し、1998年には軍事法廷も含め全ての死刑を廃止している。また、妊娠中絶を規制する法律は1988年に撤廃されたが、ハーパー首相は党首就任以来ほとんど毎度の選挙において、公約してもいない死刑・中絶禁止復活という「右翼の隠しアジェンダ」を持っていると批判されてきた。ところがハーパー首相は、5年間の政権運営に自身を深めたのか、今回のインタビューで自らこの「右翼アジェンダ」について言及した。
「カナダ国民は、私の政権に対し不安を抱かなくなくなったように思う。我々が現実的問題に目を向け、我々のためではなく国を良くするために働いていると、国民の多くは理解しているものと私は思う。」
 妊娠中絶問題については、現状維持の確固たる信念を表明した。
「私はその議員生活において、ずっとその問題から離れていようと努めてきた。ある人々、ことに我が党の党員には、この問題について熱心な者がいる。彼らは全国どこにでもいる。私が彼らに言いたいことは、もしもあなたが妊娠中絶件数を減らしたいと思うなら、法律ではなく人々の心を変えなければならないということだ。私は妊娠中絶問題を、法律論として論じることに興味はない。」
 そして昨年、長銃登録制廃止を公約したことについて問い質されると「銃に関する法律の骨子は、大多数の銃所持者に支持されている」と答えた。首相は長銃登録制廃止は公約したものの、それ以外のたとえば拳銃規制などの緩和は行ってはいない。
 ところが死刑について話題を振られると、ハーパー首相は少し混乱した様子を見せた。
「えー、個人的見解だが、死刑が適切だ思うときがある。だが少なくとも次の連邦議会では、その問題を上程することはないと約束する。」
 ハーパー政権は人権問題には熱心とみられているが、近年では、アメリカなどで死刑を宣告されたカナダ市民を救出する積極的な行動をとっていない。首相の突然の発言に驚いたのか、ディミトリ・ソウダス首相報道官はこの後「死刑復活の計画は本当にありません」という電子メールを各方面にわざわざ送った。

 だがハーパー首相の死刑容認発言に、野党各党はすばやく反応した。自由党のイグナティエフ党首は1月19日、首相の隠しアジェンダを総選挙に関連づけて警告した。
「ハーパー首相が、外国で死刑判決を受けたカナダ市民を救出しようとせず、すでにカナダの外交政策を変更してしまった後では、死刑復活法案を提出しないと言っても信用することはできない。」
「ハーパー首相の極右アジェンダを阻止する唯一の方法は、彼に過半数を与えないことだ。ハーパー首相は、自分で手を汚して彼の極右アジェンダの法案を議会に上程することはせず、保守党議員に個人提出させてきた。彼は、自分の極右アジェンダが大多数のカナダ人に受け容れられないことを、十分承知しているのだ。」
 新民主党のジョー・コマーチン議員は、首相が死刑について「社会にとって実現可能な、有効な手段」と呼んだことを非難し、「死刑は犯罪の予防・抑止効果はない」と断言した。

 連邦最高裁は2002年に全員一致で、死刑は不可逆性の刑罰であると公式に非難した。そしてアメリカで死刑判決を受けた2人のカナダ市民について、処刑されない保証を得る場合に限り引き渡されるべきだと判断した。だが当時野党だったカナダ同盟のビック・テーブス議員(現公共安全大臣)は、「最高裁は、テロリストや殺人犯をカナダに入国させるためにゲートを開いた」と非難した。

 カナダの歴史上、1481人が死刑を宣告され、1962年までにそのうち710人が処刑された。スティーブン・トラスコット元死刑囚は、無実の罪で14歳で死刑判決を受けたが、2007年の再審で無罪を宣告されている。
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