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トルドー内閣改造 [自由党]

 トルドー首相は7月18日、内閣を改造した。これはケント・ヘア前スポーツ・障害者大臣が、セクハラ疑惑で1月に辞任し、カースティ・ダンカン科学大臣が一時的に兼務していた状態を受けたものである。
 閣外に去った大臣はなく、新入閣の大臣が5人いる。閣僚数は30人から35人に拡大し、トルドー首相を別にすれば男女とも17人の同数のままである。クリスティア・フリーランド外務大臣、ビル・モルノー財務大臣、ハルジット・シン・サジャン国防大臣ら、重要閣僚には変動がなかった。だが今回の改造では、注目すべき3人がいる。

 (1) 注目の人事
 次の総選挙まで、長くても1年あまりの期間しか残されていないが、与党自由党の支持率は保守党と拮抗している。トルドー首相がマリファナを合法化したことや、トランプ大統領に対抗し「難民を歓迎する」と発言したことは、少なからずカナダ国民を動揺させた。保守党は治安悪化を訴え、支持を拡大している。自由党が総選挙に勝利するには、都市部でできるだけ多くの議席を獲ること、特に自由党が強く議席の多いオンタリオとケベックが鍵となる。
 オンタリオでは6月、自由党政権が倒れ、保守党のダグ・フォード政権に替わった。また、2月に発足した保守系サスカチュワン党のスコット・モウ政権も、トルドー首相が推進する炭素税に、フォード首相とともに反対することを表明している。そこでトルドー首相は、親子2代に渡るつきあいで幼馴染の腹心ドミニク・ルブラン漁業海洋大臣を、政府間関係大臣(連邦政府と州政府を調整する)に任命した。彼はさらに、北方問題大臣と国内貿易大臣も兼務する。
 なおケベックでは今年秋、アルバータでは来年春までには州議会総選挙がある。前者は自由党政権、後者は新民主党政権で、トルドー政権との関係は良好だが、いずれも保守系政党に大きなリードを許している。
 ルブラン氏は、次のように抱負を述べた。
「我々は、フォード首相や他の州首相らとともに建設的に働くことを楽しみにしている。カナダ国民は最終的には、それぞれの政府が協力するものと考えていると思う。」
 次に注目すべきは、ジム・カー国際貿易多様化大臣である。トランプ大統領がNAFTA(北米自由貿易協定)再交渉を主張し、関税報復合戦に発展している事態の収拾、さらにはカナダ・EU自由貿易協定の促進や、中国との貿易協定、ラテンアメリカ諸国との経済統合に努めることになるだろう。
 もう一人注目すべきは、ビル・ブレア国境警備及び組織犯罪低減担当大臣である。これは本来なら公安大臣の職務であるように思われるが、トルドー首相はブレア大臣の任務について「保守党の筋書きと戦うことになる」と説明した。首相によると、保守党は国民の間に恐れを生じさせ、分断させようとしているのだという。
 フォード首相の弟ロブ・フォード氏は、コカイン使用を暴露されトロント市長を辞任した。ブレア氏はこのときトロント警察署長で、フォード兄弟について調査していたという。このことから、トルドー首相はフォード首相と交渉するにあたり、ブレア氏の持つ情報を利用しようとしているのではないかという憶測もある。

 (2) 初入閣の顔ぶれ
 次に、初入閣の顔ぶれを見る。ビル・ブレア大臣については前述した。パブロ・ロドリゲス文化遺産及び多文化大臣は、当選5回のベテランで、下院幹事長を務めた。
 フィロメナ・タッシ高齢者大臣は、企業の顧問弁護士、高校のチャプレン、オンタリオ州議を務め、2015年総選挙で初当選した新人議員で、下院副幹事長を務めた。トルドー政権は、新たに「高齢者省」を設置することになっている。
 メアリー・ン中小企業・輸出促進担当大臣は、オンタリオ州文部省やライアソン大学に勤め、2017年3月の補選で初当選した新人議員である。
 ジョナサン・ウィルキンソン漁業海洋大臣兼カナダ沿岸警備隊大臣は、環境政務次官から昇進した。2015年総選挙で初当選した新人議員で、かつてサスカチュワン州のロマノウ首相のブレーンを務めた。
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 (3) その他の変動
 アマルジート・ソーヒ天然資源大臣は、インフラ・地域社会大臣からの横滑りである。自由党では珍しいアルバータ州選出議員で、2015年総選挙で初当選した新人議員だがいきなり閣僚ポストを与えられた。彼の最も重要な任務は、トランスマウンテン・パイプラインを巡る交渉である。
 バーディッシュ・チャッガー下院院内総務は留任し、中小企業・観光大臣の任務から離れた。
 キャロリン・ベネット政府=先住民関係大臣は留任し、北方問題大臣の任務から離れた。
 カースティ・ダンカン科学大臣兼スポーツ大臣は留任し、障害者大臣の任務から離れた。
 マリー=クロード・ビボー国際開発大臣は留任し、フランコフォニー担当大臣の任務から離れた。
 スコット・ブライソン予算庁長官は留任し、デジタル政府担当大臣を兼務する。
 メラニー・ジョリー観光・公用語・フランコフォニー担当大臣は、文化遺産大臣からの横滑りである。
 フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ インフラ・地域社会大臣は、国際貿易大臣からの横滑りである。
 カーラ・クワルトロー公共サービス・調達・アクセシビリティ担当大臣は、アクセシビリティ担当を新たに加えた。

 新民主党のダニエル・ブレイキー議員は、多数の無任所大臣任命を皮肉った。
「彼らが特にいい仕事をしていない問題について、解決するつもりがあるよう見せかけるため、新たな閣僚ポストを設置しただけだ。」
 保守党のリサ・レイト副党首も、今回の内閣改造を酷評した。
「この政権が言っていることは、州と戦う用意ができているということだと思う。」


 【トルドー内閣閣僚】
総理大臣:ジャスティン・トルドー
公安・非常時対応準備大臣:ラルフ・グッデイル
農務・農産食品大臣:ローレンス・マッコーレー
政府=先住民関係大臣:キャロリン・ベネット
予算庁長官兼デジタル政府担当大臣:スコット・ブライソン
政府間関係大臣兼北方問題大臣兼国内貿易大臣:ドミニク・ルブラン
イノベーション・科学・経済開発大臣:ナブディープ・シン・ベインズ
財務大臣:ビル・モルノー
法務大臣兼司法長官:ジョディー・ウィルソン=レイボールド
外務大臣:クリスティア・フリーランド
先住民サービス大臣:ジェーン・フィルポット
家庭・子供・社会開発大臣:ジャン=イブ・デュクロ
運輸大臣:マルク・ガルノー
国際開発大臣:マリー=クロード・ビボー
国際貿易多様化大臣:ジム・カー
観光・公用語・フランコフォニー担当大臣:メラニー・ジョリー
歳入大臣:ディアーヌ・ルブティリエ
環境・気候変動大臣:キャサリン・マッケナ
国防大臣:ハルジット・シン・サージャン
天然資源大臣:アマルジート・ソーヒ
女性の地位担当大臣:マリアム・モンセフ
公共サービス・調達・アクセシビリティ担当大臣:カーラ・クワルトロー
科学大臣兼スポーツ大臣:カースティ・ダンカン大臣
雇用・労働力開発・労働大臣:パトリシア・ハイデュ
与党下院院内総務:バーディッシュ・チャッガー
インフラ・地域社会大臣:フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ
民主機構大臣:カリナ・グールド
移民・難民・市民権大臣:アハメド・フッセン
厚生大臣:ジネット・プチパ・テイラー
退役軍人大臣兼国防副大臣:シームス・オリーガン
文化遺産及び多文化大臣:パブロ・ロドリゲス
国境警備及び組織犯罪低減担当大臣:ビル・ブレア
中小企業・輸出促進担当大臣:メアリー・ン
高齢者大臣:フィロメナ・タッシ
漁業海洋大臣兼カナダ沿岸警備隊大臣:ジョナサン・ウィルキンソン


写真:左からフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ インフラ・地域社会大臣、パブロ・ロドリゲス文化遺産及び多文化大臣、ビル・ブレア国境警備及び組織犯罪低減担当大臣、フィロメナ・タッシ高齢者大臣、ジョナサン・ウィルキンソン漁業海洋大臣兼カナダ沿岸警備隊大臣、メアリー・ン中小企業・輸出促進担当大臣。
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