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在外市民の選挙権を否定:ドナルド・サザーランド氏、投票できず [人権]

 オンタリオ控訴裁判所は7月20日、外国に5年以上滞在したカナダ市民の選挙権を認めたオンタリオ高裁の判決を覆した。これにより、近い将来実施される連邦議会総選挙において、ドナルド・サザーランド氏を含む150万人ものカナダ市民が投票できないことになった。

 5年以上滞在したカナダ市民の選挙権が制限されたのは、マルローニ政権時の1993年である。このときは、休暇のため一時的に帰国するだけでも選挙権を回復できた。またこのときの改正は、裁判官・精神障害者・更生施設に2年未満収容されている者への制限を解除した。2007年には選挙管理委員会が、一時帰国による選挙権回復を見直し、居住していることを要件とした。
 2012年、ニューヨークに暮らすカナダ市民ジリアン・フランクさんとジェイミー・デュオンさんは、投票する権利を求めて訴えを起こした。オンタリオ高裁のマイケル・ペニー判事は2014年、居住ではなく市民権が選挙権の必要条件であるため、外国に滞在したカナダ市民の選挙権を制限する選挙法は違憲だと判断した。

 オンタリオ控訴裁は、2対1で高裁判決を覆した。ジョージ・ストラシー首席判事は「国政選挙において、実質的に影響のない非居住者に投票権を認めることにより、カナダで日々現実の生活を過ごしている人々に影響を及ぼす権限を与えることは、不当である」「カナダに居住せず、カナダの法律を受け入れる必要がない人々が投票できるならば、我々の民主主義の合法性をむしばむことになる」と述べ、さらに原告の2人について「彼ら自身の要求により、カナダとの関係を自発的に断ち切った」と定義した。彼はまた5年の制限について、イギリスの15年、オーストラリアの6年、ニュージーランドの3年と比較し「理にかなった、最小限の制限」と判断した。

 判決を受けてフランクさんは「まるで自分が二級市民になったように感じた」と語った。
 ヨーク大学で政治学を教えるデニス・ピロン教授は、グローバル化した社会では、市民権についての考えも変化しうると指摘した。
「民主主義の本質は、自分の生活に影響を及ぼすことを決定する能力が、人々にあることだと私は考える。」
 彼はまた、トロント市議会が投票権を定住者に与える法案を可決した例を挙げ、問題は市民権のみにとどまらず、法律に影響を受ける全ての住民にまで拡大する可能性に言及した。
「この論争はひょっとすると、誰が投票するにふさわしいかという、より大規模な論争をひき起こすかもしれない。」

 保守党政権は2014年1月の高裁判決を受けて、12月にようやく市民投票法案(C-50号法案)を上程した。政府は在外カナダ市民が投票可能にするための法案だと主張したが、それには国外在住であるにもかかわらず、全ての選挙ごとに市民権の証明と選挙区登録を必要とした。カナダ在住市民はいつでも登録できるのに、在外市民は必ず選挙公示後に、しかも郵送でしか登録できず、法が規定する最低選挙期間が37日で、50日を超えることが稀であると考えると、郵便物が往復している間に投票日が過ぎてしまうことも考えられる。さらに選挙区を決定するため、カナダにおける最後の住所地の証明が必要だが、パスポートには住所の記載がない。この法案は「市民投票阻止法案」と呼ばれ強い批判を受けたが、可決されないまま第41回連邦議会の第2セッションが夏休みに入り、近く解散・総選挙が実施されそうなため、廃案になる見込みである。
 2011年に実施された連邦議会総選挙では、国外に5年未満滞在する市民6000人、国外に駐留するカナダ兵2万6000人、受刑者1万5700人などによる特別投票は、かなり多くが自由党に投じられた。グレーター・トロントの選挙区43のうち、特別投票で自由党候補が最も多くの票を獲得した選挙区は34にのぼった。そこで保守党政権は、在外市民の投票を阻止する必要があるのではないかと噂されている。フランクさんは、政府はなぜこの法案を是が非でも可決させず廃案にしたのか、理解に苦しむと語った。
 なおオンタリオ控訴裁のうち、高裁判決を退けたジョージ・ストラシー判事とデビッド・ブラウン判事の2人はハーパー首相(保守党)に指名され、高裁判決に同意したジョン・ラスキン判事はクレチエン首相(自由党)に指名されている。

 カリフォリニア州在住の俳優ドナルド・サザーランド氏は、7月29日グローブ&メイル紙に手紙を送った。彼は1935年ニューブランズウィック州セントジョンに生まれ、2010年バンクーバー・オリンピックではオリンピック旗を持って入場した。

「私は、カナダ人である。しかし、以前ほどそうではない。私の名は、ドナルド・サザーランド。妻の名は、フランシーヌ・ラセットである。我々は、カナダ人である。我々は、パスポートを一つだけ持っている。カナダのパスポート、それだけだ。国境に行くと、なぜアメリカの市民権を取得しないのかときかれる。アメリカ市民になっても、そのままカナダ人でいられると。二重国籍が可能なのだと。だが私は、『ノー』と言う。私はカナダ人だ。
可能なかぎり、我々はカナダに滞在している。我々の家は、ここにある。私が『家』とか『ここ』とか言うとき、いまだによく考える必要がある。私はうっかり“eh?”と言わないよう、気をつけなければならない。40年ほど前の1978年、カナダ政府は私にオーダー・オブ・カナダ勲章を授与した。カナダ総督は、私に総督賞を授与した。私は、トロントのウォーク・オブ・フェームに名を連ねている。私のユーモアセンスは、カナダ人のものである。しかし、私は投票できない。
常にここに暮らしていなければ、投票することはできない。国外で暮らすアメリカ人は、投票できる。市民だから、彼らは投票することができるのだ! だが私にはそれができない。なぜか。私が市民でないからか。カナダで起きることが私には重要でないからか。私がどの国に誇りを抱いているか、私にインタビューした記者たちに尋ねてみるがいい。彼らは言うだろう。私はカナダ人だと。しかし私は国外在住者で、ハーパー政権は国外在住者を選挙に参加させない。
ル・モンド紙の社説を読んだだろうか。カナダはもはやカナダではないと、1ページかけて語っている。美しい、平和を希求するカナダ、人々がかつて知っていたカナダ、誇りにしていたカナダは、もはやカナダではないのだと。記事は、誰がカナダ人なのかについて詳述している。なんと嘆かわしいことだろう。そしてこの新しい『カナダ』、本当のカナダの地を占めるこのカナダの政府は、世界中のカナダ市民に投票権を認めない法律を躍起になって推進した。なぜか。それは、世界の国々が希求する価値を反映する政権に、我々が投票によって戻してしまうかもしれないと、彼らが心配しているからかもしれない。」
                              ドナルド・サザーランド、カナダ人
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