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ケベック党、あす歴史的敗北へ [ケベック]

 選挙戦の初めにマロワ首相は、「これは(議員を選ぶ)選挙であって、(独立を問う)住民投票ではない」と説明した。だが住民投票を実施しないと約束できるかと問われると、「するともしないとも明言しない」「適切な時期が来るまで実施しない」という、玉虫色のコメントに終始した。それは、「実施する」と明言すれば独立を恐れる層を取り逃がし、「実施しない」と明言すれば熱烈な独立派を取り逃がすという事情から来たものだった。
 選挙戦が始まって5日目、ケベコー財閥総帥ピエール・カール・ペラドー氏の出馬が、選挙戦の流れを決定づけることになった。彼の候補擁立は、ケベック党がただの革新政党ではなく、財界にも支持されている証明になるはずだった。ところが金持ちでハンサムな彼は、ただ愛想を振りまいてさえいればよかったのに、ケベック経済再生について熱弁をふるい、さらに「ケベックを国にしたい」と禁句を口走った。
 アメリカのジャーナリストのマイケル・キンズレーは「政治的失敗とは、政治家がうっかり本当のことを言うことである」と語った。マロワ首相の配慮にもかかわらずペラドー氏の告白は、この選挙の争点をケベック独立問題として決定づけた。
 自由党のボブ・レイ前党首は彼を「三塁ベース上で生まれていながら、自分で三塁打を打ったと思い込んでいる男」と評した。彼がケベック党から出馬したのは、どう考えても間違いとしか思えなかった。同じ左翼の独立派である少数政党ケベック連帯は、ペラドー氏が組合潰しを続けて来た過去を取り沙汰し、ケベック党支持者の取り込みを目論んだ。この戦略は功を奏したようで、前回総選挙で得票率6%だった同党は、支持率を13%にまで上昇させた。
 ケベック党創設メンバーで離党したジャン・ドリオン氏は、「ラ・プレス」紙に「スカーフやキッパを恐れる人々は、あらゆることに、彼ら自身の影ですら恐れる」と綴った。マロワ首相が真の争点にしたかったケベック価値憲章は、ケベック社会において圧倒的多数を占めるフランス文化が、圧倒的少数民族からの脅威にさらされているという理由で、彼ら少数派を合法的宗教差別の対象とするものであり、価値憲章が制定されれば、ヘジャブやニカブやターバンのような宗教的シンボル-ただし十字架を除く-が魔法のように官庁・病院・学校から消えるという幻想を、有権者に信じさせるものである。
 マロワ首相は、価値憲章によって誰も解雇されることはないと説明した。だが官庁・病院・学校でヘジャブやニカブやターバンが禁止されれば、イスラム教徒やシーク教徒の従業員は、退職することになる。そして首相は、それらの人々は「民間部門」で職探しを「援助」されるという。有権者は、このような欺瞞を見抜いていた。
 マロワ首相は、しばしば「適用除外条項」に言及した。これは1982年憲法第33条1項に規定されている、州政府は1982年憲法第1章に反する立法措置を取ることができるという法律上の自己矛盾であり、連邦政府と州政府が憲法制定のために仕組んだ妥協の産物である。ケベック州は今もこの憲法の批准を拒否しており、憲法を批判し、ときには侮辱さえしておきながら、適用除外条項だけは受け容れているというのである。
 総選挙が公示された日、フランス・シャーボノー判事は、選挙に影響を与えかねないため、長年続いている横領捜査を一時中止すると発表した。これは、自由党に有利になるはずだった。マロワ首相は、自由党政権の過去の腐敗を何度も口にした。だが元モントリオール警察署長ジャック・デュシェスノー氏は3月21日、「ケベック党が自由党だけの問題だと思うのは大きな間違いだ」と語った。マロワ首相の夫クロード・ブランシェ氏が企業から献金を受け取っていた事実が発覚したのは、そのわずか4日後のことだった。マロワ首相は一転して、守勢に立たされた。

 マロワ首相は、過半数を取れるつもりでいた。しなくてもいい総選挙を行い、立てるべきでない候補を立てて、言うべきでないことに言及した。ケベック党は明日、歴史的敗北を喫するだろう。独立を封印して戦い敗れれば、ハードコア独立派は黙ってはいまい。マロワ首相は党首に留まることはできず、辞任することになるだろう。彼女は長い政治歴を、惨めな敗北で終える。そしてこれは、党内穏健派の破綻をも意味する。
 ケベック党には、2つの道がある。一つは、存在理由を失って四部五裂する道。もう一つは、ハードコア独立派が実権を奪回し、より先鋭化・カルト化する道である。どちらの場合でも、同じ左翼で独立志向のケベック連帯が、ケベック党支持者を吸収することになる。
 自由党が過半数を獲得できなかった場合、ケベック未来連合との連立が話題にのぼることになる。ケベック未来連合は、政策的に自由党と極めて近いことから、同党が議席を減らした場合、相当な人数が自由党に移籍し、同党は消滅する可能性がある。ルゴー党首が議席を維持できるかどうかが、重要なポイントとなる。
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