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ケベック党過半数割れの勝利、民族主義的政策に警戒心 [ケベック]

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 9月4日に行われたケベック州議会選挙は、ケベック党54議席、自由党50議席、ケベック未来連合19議席、ケベック連帯2議席(定数125)という結果となり、ケベック党が過半数割れながら9年ぶりに政権を奪回した。ポリーヌ・マロワ党首はケベックの歴史上初の女性首相となることが決まり、これで10州のうち4州・3準州のうち1準州の5人が女性首相となる。なおマロワ党首の勝利演説の最中、イギリス系市民が発砲し、市民2人が撃たれ1人が死亡した。
 ケベック党・自由党・ケベック未来連合の得票率はそれぞれ31.9%、31.2%、27.1%と大差がなく、新党ケベック未来連合の参入で反独立票が2つに割れたことが、ケベック党に利した。ケベック党は悲願の政権奪回を実現したものの、同じ左派・分離主義のケベック連帯と合わせても過半数に届かず、右派・反独立派の自由党・ケベック未来連合両党は合わせて過半数になることから、マロワ政権は早晩行き詰まり、近い将来解散・総選挙に追い込まれることも考えられる。
 各種世論調査は今年4月のアルバータ州議会選挙に続き、またも予想を大きくはずした。反独立派の相当数が、ケベック党政権阻止のため、投票日直前になってケベック未来連合から自由党にシフトしたものと思われる。投票日当日は世論調査を発表できないことから、この動きを捕捉できなかったようだ。

 有権者は自由党の長期腐敗政権を嫌い、ケベック党に政権を渡したものの、過激な政策を採ることがないよう、二大野党に過半数を与えるというぎりぎりの選択をした。勝利したマロワ党首は、過半数割れという際どい結果を受けて、神妙なコメントをした。
「我々は、他党議員も含めた議会の選択を尊重する。我々は、ケベックを動かすためには、必要な妥協をする。我々は、責任ある政治を行う。」
 マロワ党首が公約した富裕層への増税、大学授業料値上げの凍結、健康保険の拡大などの左寄りの政策は、有権者に受け容れられたようだ。だがそのいっぽうで、職場でのフランス語使用を義務化し、またケベック州民に「市民権テスト」を行いフランス語の不自由な市民の市民権を制限するという新「フランス語憲章」や、公務員がニカブやブルカなどの宗教的シンボルを職場で着けるのを禁ずる(しかし十字架は「民族の遺産」なので禁止しない)「世俗主義的人権憲章」の導入を公約して物議をかもした。過半数割れという結果は、これらの民族主義的政策に対する有権者の強い警戒の表れではないだろうか。

 今回が初めての総選挙となった新党ケベック未来連合は、世論調査で一時は2位につけていたが、蓋を開けてみると予想をかなり下回る結果に終わった。フランソワ・ルゴー党首は、次のように述べた。
「わずかな票のロスが、多くの議席喪失につながった。」
「ケベック州民は、新しい政権をきつい鎖で縛ることに決めた。彼らは、ケベック党に少数政権を与えた。それを監視することが、我々の責任である。」

 自由党は、一時は世論調査で3位となり、創立以来初の第三党転落も懸念されたが、50議席を獲得し底力を見せた。ジャン・シャレー首相は、選挙結果を次のように総括した。
「世論調査が誤っていることをもう一度示してくれた、自由党の活動家諸氏に感謝したい。この選挙の結果は、ケベックの将来がカナダの中にあるという事実を物語っている。これは、私が望んだ結果ではない。だが我が党はこれからも、ケベックに奉仕し続けると確信をもって言える。我々とケベック党との得票差は、わずか1%にすぎない。」
 だが得票率31.2%は結党以来最低であり、シャレー党首が落選した以上、党首に留まることは困難で、引退に追い込まれるだろう。
 シャレーは28歳で史上最年少の大臣となり、35歳で進歩保守党党首に就き、ケベック政界でも連続三選を果たしたエリートである。だが連邦政界・ケベック政界を通じてシェアブルックを地盤にしてきたが、落選は初めての経験だ。
 彼が三選できたのには、いくつかの幸運があった。一つ目は、彼がケベック政界に転身したのは、独立を問う二つの住民投票が否決され、独立運動が退潮してからのことだった。二つ目は、ケベック党のカリスマ・ブシャールの引退後、彼はカリスマ性を欠いた党首と戦うことができた。三つ目は、ケベック民主行動党が弱小勢力だったため、自由党は反独立票を独り占めにできた。
 一時はポスト・ハーパーの最有力候補だった彼は、3期目で勇退すべきだった。ハーパー首相は過半数をなかなか獲れず、いつ政権が終わってもおかしくなかったので、シャレーはハーパー敗北の機会をじっと覗っていたのだろう。だがハーパー首相は、2011年下院選挙でついに過半数を獲得し、長期政権が確実となったため、辞めどきを失ってしまい、今日の敗北を招いてしまった。
 シャレー党首は今後について、5日に記者会見を行う。

 ケベック党の結果次第ではキャスチング・ボートを握る可能性もあった、ケベック連帯のアミル・カディル代表は、「世俗主義的人権憲章」と新「フランス語憲章」には賛成できず、ケベック党との連立はしないと語った。
「ケベックの公共サービスは、ケベックに暮らす全ての人のためのサービスである。ケベックに属することは、我々にとって人種とは関係ない。」

 マロワ党首は、独立こそ明言しなかったものの、雇用保険や文化に関して、連邦政府の権限をケベックに移譲することを求めていた。ケベック党は、中央政界で最も嫌われているケベックの政党である。またケベック州に5議席しか持たない与党カナダ保守党は、ケベックで最も嫌われている連邦政党である。よって保守党とケベック党の組み合わせは、考えられる最悪のものと言える。ケベック党勝利を受けてハーパー首相は、意味深長なコメントを発表した。
「ケベックの人々は、ケベック党の少数政権を選んだ。ケベックの人々が、過去の憲法論争を蒸し返すことを望んでいるとは思わない。雇用と経済成長が、ケベックのプライオリティであろう。」
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