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「オレンジ旋風」こそ保守党過半数の原因 [2011年下院選]

 5月2日に実施された連邦議会選挙では、保守党が議会侮辱や相次ぐ閣僚のスキャンダルにもかかわらず、連続三選しかも初の過半数安定政権の樹立を実現した。これにより、左派3党が過半数を握り、与党がパーシャル連立を余儀なくされた時代が終わりを告げた。保守党の経済政策は有権者に支持され、自由党とケベック連合の2つの左派政党は壊滅的敗北を喫した。
 だが得票数で見ると、保守党が583万票を獲得したのに対し、新民主党と自由党は729万票を獲得しており、左派票は依然として右派票を上回っている。にもかかわらず、40%にも満たない支持率で、保守党は過半数の獲得に成功している。
 保守党は得票率を2%上昇させるだけで、24議席増加した。得票率1%当たり4.2議席を獲得したことになる。いっぽう「オレンジ旋風」を巻き起こした新民主党は、得票率を12.5%上昇させ議席を3倍以上に増加させたにもかかわらず、得票率1%当たり3.3議席しか獲得していない。得票率が7.4%減少した自由党は、得票率1%あたりわずか1.8議席にとどまっている。緑の党は得票率が2.9%減少したものの、悲願の1議席獲得に成功した。

 今回の選挙結果について、多くの批評家が「カナダ政治の二極化」を指摘する。有権者は、少数政権を繰り返す従来の議会のあり方に危機感を覚え、左右の両極化を志向したというのである。
 左派の有権者が自由党から新民主党に切り替えたことは、「二大政党+2」制の政治力学に思わぬ変動をもたらした。最も劇的な変動が起きたのは、大票田のオンタリオである。90年代には自由党が100議席を占める強固な地盤であったが、過去2回の総選挙で北部を新民主党に、トロントを除く南部と中部を保守党に奪われた。それでも自由党は、最後の牙城であるグレーター・トロント地域の大部分を死守した。
 それが今回総選挙では、保守党の議席増のほとんどがグレーター・トロント地域で起こった。保守党は「農村から都市を包囲せよ」を合言葉に掲げ、グレーター・トロント地域の44議席中30議席を獲得し、州全体では73議席を獲得して、23年ぶりにオンタリオで第一党となった。保守党が今回新たに獲得した24議席のうち、18議席がグレーター・トロント地域(トロント市からは9議席)であり、その全てが自由党から奪った選挙区である。トロントに保守系市長が誕生したことなどから、グレーター・トロント地域ももはや自由党の地盤とは言えなくなっているようだ。

 新民主党の「オレンジ旋風」により、左派票は自由党と新民主党の間で分散され、保守党が多くの選挙区漁夫の利を得た。それは進歩保守党と改革党が右派票を分散させ、自由党に圧勝を許した1993年総選挙の再現であった。
 たとえばオンタリオ州ドン・バレー・ウェスト選挙区で、新民主党候補は2008年総選挙より1182票多く獲得している。その増加分は自由党支持者からと思われ、保守党候補に漁夫の利をもたらした。保守党がわずかな支持率の上昇で、効率的に多くの議席を獲得したのは、このように自由党候補が得票を減らしたことが作用している。
 このような現象を、一部の批評家は中道政治の終焉と位置づける。有権者は本来、多少なりとも右か左に寄っているはずである。しかし二代政党制においては、一つの党が左に寄れば、右派のもう一つの党が中央の票田を占拠してしまう。そのためどの党も、選挙対策として中道に寄ってしまうというのである。
 だが西欧では、中道政党が退潮しているという見方が強い。小規模中道政党は、イギリスとドイツに存在しており、しばしば連立与党を形成するが、彼らが単独で政権を担当することはない。
 左派の有権者は保守党の「隠しアジェンダ」を、右派の有権者は新民主党が基幹産業を国営化することを警戒する。彼らはおそらく、本心ではそうしたいのだろう。だがそうすることで、彼らは中道票の支持を失うことになるから、実際には踏み切れないだろう。本心では死刑復活を支持しながら、それを政治日程に乗せることはしないと明言したハーパー首相の、絶妙のバランス感覚が印象深い。
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