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パイェット総督、辞任か [総督]

 ジュリー・パイェット総督は、総督府スタッフに暴言を吐き、スタッフを泣かせたり辞職に追いやったりするなどのパワハラを働いたと7月21日に報じられ、枢密院が調査している。
 彼女は就任以来3年間も総督公邸リドー・ホールに居住しなかったので、これについても批判があるが、入居にあたり自身のプライバシーと便宜のためと称し、公邸にプライベートな門・扉・階段を設置するのに25万ドル以上も費やしたことが8月6日に報じられ、さらなる批判にさらされている。
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 クリスティア・フリーランド副首相は7日、メディアに政府は総督を支持するかと問われ、こう答えた。
「カナダ国民には総督府に対する敬意があり、私も同様に敬意を払っている。」
 記者に「今の総督以外には、ですか?」と問われると、副首相は次のように述べた。
「総督府は、制度上極めて重要な役割を担っている。そしてカナダ国民の圧倒的多数と同様に、私には総督府とその役割への敬意がある。」
 この発言を受けて、報道各社は一斉に「パイェット総督は政府の支持を失った」と報じ、彼女を失職させるための法的手続きについて論じ始めた。

 (1) 総督の失職
 総督は、首相の助言に基づき女王が任命する。失職する方法は、辞任、死亡のほか、首相の助言に基づき女王が解任するしかない。
 カールトン大学で政治学を教えるフリップ・ラガッセ准教授は、国王による総督解任はほとんど前例がないと指摘した。
「私は、問題がそこ(※女王による解任)に行き着くとは思わない。」
「誰もがこう考えるだろう。それは、彼女に次の3年務めさせるより多くの問題を惹き起こすだろうと。」
「パイェット総督は、刑事犯罪や憲法の規定に反して批判されているわけではない。単にまずいことをしただけだ。たったそれだけの理由で、女王に解任を要請することは考えられない。」

 (2) 女王は介入するか
 ラガッセ准教授は、パイェット総督への批判は、もっぱらカナダの問題と見なされるだろうと語った。
「王室は、女王がカナダの問題に巻き込まれ、政治的ダメージを負うことを懸念するだろう。」

 (3) 失職した総督はいたか
 オーストラリアのピーター・ホリングワース総督は2003年、性的虐待の疑いのため辞任した。
 不祥事を起こした総督は、辞任するよう説得されるので、総督が辞任を拒否して国王に解任された例は3度しかない。セントルシアで1982年ボズウェル・ウィリアムズ総督、セントクリストファー・ネービスで1981年プロビン・インニス総督と、2015年エドムンド・ローレンス総督である。

 (4) 総督の任期
 総督の任期には規定がなく、「女王の仰せのままに」であるが、慣例では5年で、1度だけ延長できる。ゆえにいつ失職しても、違法ではない。

 (5) 女王は首相の助言を拒否するか
 女王は、首相の助言にたいていは従う。だが総督には首相を解任する権限があるので、首相が総督による解任を恐れ、保身のために先手を打って総督を解任するよう助言していると判断するなら、助言を拒否することはありえる。
 オーストラリアで1975年、予算関連法案が与党多数の下院で可決されたが、野党多数の上院で否決されてしまい、上院と下院の間で4週間にもわたる膠着が続いた。するとジョン・カー総督は、突如ゴフ・ホイットラム首相を解任し上下両院を同時解散する政治介入に踏み切った(憲法危機)。一説によると、カー総督はホイットラム首相が自分を解任するという情報を掴み、先手を打って首相を解任したとも言われている。
 2008年のカナダで、下院で過半数を握る野党三党が連立協定に調印し、ハーパー内閣を不信任する動きを見せたとき、首相が女王に助言してミカエル・ジャン総督を解任するのではないかという憶測が流れたが、首相が選んだのは総督に議会の停会を要請することだった。総督が要請に応じたのは、首相に脅されたからだという噂もあるが、定かではない。

 ジャン総督は陽気な性格で人気があったが、ハーパー首相は彼女の過度なパフォーマンスを好まなかった。首相は異例にもジャン総督の任期を延長せず、地味なデビッド・ジョンストン学長を後任に据えた。
 つまらない総督よりもっとよくないのは、おもしろすぎる総督、話題になりすぎる総督だろう。フレーザー・バレー大学で歴史学を教えるバーバラ・メッサモア教授は、総督を消火器に喩える。
「それは明るい色で塗られ、人目を引く。しかし、それはめったに使用されない。そして人々は言うだろう。『これは役に立たない。なくてもいいのではないか?』」
「総督が話題になるとき、役に立つとき、それは良くないときである。」
 現在、トルドー政権は過半数割れの少数政権である。総督は首相を指名し、解任し、議会を解散し、停会にできる。過半数政権ではこれらの権限は問題にならないが、少数政権ではいつ内閣不信任されるかわからない。そのような場合に総督はキーパーソンたりえるが、大きな権限を持つがゆえに、その判断について疑念を抱かれてはならない。政権に危機が迫る前に、総督を入れ替えておく必要性は十分にあるだろう。


図:宇宙に亡命するため階段を早く作れと催促するカナダ総督。
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