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カナダに「制度的人種差別」はあるか [人権]

 ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が5月25日、警官の暴力によって死亡する事件が起きると、行政による「制度的人種差別」に憤る人々が抗議のデモを行い、一部は暴徒と化した。カナダでは3月10日アルバータ州フォートマクマレーで、アサバスカ・チペワイアン・ファーストネーションのアラン・アダム首長が拘束される際、警察に顔面を激しく殴打される様子が動画として公表された。
 連邦警察(RCMP)のブレンダ・ラッキ長官は6月12日、カナダの行政にも人種差別はあり、その解消に取り組んできたと語ったが、後に発言を修正した。
「私は、我が国の行政機関に人種差別があると認めたが、制度的人種差別が連邦警察に存在するとは言っていない。」
 これを受けてリリアン・ディック上院議員(進歩上院の会)は15日、彼女の辞任または解任を要求した。
「彼女の最近の声明は、制度的人種差別が何であるかのかを、完全に理解していないことを示している。連邦警察が制度的人種差別を除去する方法を心に描き、実行することは彼女にはできない。制度的人種差別が、連邦警察に存在するかどうかについての彼女の不可解な転換は、リーダーとして逆説的であり、受け入れがたい。」
 なおディック議員は、クリー・ゴードン・ファーストネーションに属している。

 アバカス・データ社が6月5日から10日まで、18歳以上のカナダ人1750人を対象に実施した世論調査は、制度的人種差別はあると回答した人が61%、ないと回答した人が9%という結果を示した。
 レジェ・マーケティング社が6月5日から7日まで、18歳以上の1523人のカナダ人と1001人のアメリカ人を対象に実施したオンライン世論調査では、「以下の人々のうち誰を支持しますか」という設問に、カナダ人は、差別に抗議する人72%、警察39%、州政府33%、トランプ大統領9%と回答した。対照的にアメリカ人は、差別に抗議する人が63%と少ないのに対し、警察55%、州政府52%、トランプ大統領38%と、行政に対する支持が顕著に高かった。そこでカナダ人回答者に、市民と警察の関係はアメリカに比べて良いかと尋ねたところ、「良い」が77%、「ほぼ同じ」が15%、「悪い」が3%という結果になった。
 また、人種差別は行政において深刻な問題であると回答したカナダ人は、白人で48%だったのに対し、有色人種では61%だった。

 自由党は有色人種の間で強く支持されていて、その基盤であるオンタリオ・ケベック・ブリティッシュコロンビアはいずれも有色人種の多い地域である。有色人種が過半数を占める選挙区が全国で41あり、うち自由党は32議席を持っている。
 アバカス・データ社の統計は、有色人種の有権者の間で自由党支持者が52%、保守党支持者が22%、新民主党支持者が20%であることを示している。これが白人有権者になると、自由党の保守党に対する優位はわずか6ポイントに過ぎない。
 有色人種の有権者では、トルドー首相の支持率が53%なのに対し、不支持率は19%である。2019年秋の総選挙期間中、首相が教師時代に「アラビアン・ナイト」のパーティでブラックフェイスに塗った写真を暴露されたときが最も支持率が低く、43%だったことを思えば、劇的な改善だといえる。人々は首相を、新型コロナウィルス対策に頑張っていると好意的に評価しているようだ。
 今総選挙が実施されれば、自由党が過半数を容易に獲得することに疑いの余地はない。だが新型コロナが完全に制圧されたとは言えない現状において、総選挙を実施すれば、投票所に人々が殺到しクラスターを招きかねない。総選挙が実際に行われるときには、自由党の支持率は下がっていることが考えられる。そこで人種問題は、自由党が総選挙に勝利するための重要なファクターでありえる。

 トルドー首相は人種差別への抗議集会に参加し、膝を屈してこう語った。
「制度的人種差別はまさに、全国的な、警察を含む全ての行政機関の問題である。それは多様な背景を持つカナダ人たちが、世代を超えて直面してきた問題である。これはカナダ人が、我々のシステムには不公平があると認めた瞬間である。」
 対照的に、ケベック連合のイブ=フランソワ・ブランシェ党首は2日、カナダに制度的人種差別があることを否定した。
 ケベック州のフランソワ・ルゴー首相も、制度的人種差別を否定した。
「差別はいくぶん存在する。だが制度的人種差別というものはない。」
 ストックウェル・デイ元国際貿易大臣(元保守党)は2日、レギュラー出演していたCBCのニュース番組で、次のように述べた。
「我々は、カナダの制度が完全ではないと認めなければならない。そう、我々の周囲には少数の愚か者がいるが、カナダは人種差別国ではないし、大多数のカナダ人は人種差別主義者ではない。そして、常に改善される必要のある我々のシステムは、制度的に人種差別主義ではない。」
 彼はスポンサーの意向により、降板させられた。
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