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トルドー首相が内閣改造 [自由党]

 トルドー首相は1月10日、小規模な内閣改造を行った。新入閣が3名、閣外に去った人が3名、閣内の異動が3名で、その他は留任した。閣僚の男女比は、男性15名・女性15名と同数のままである。

 (1) トランプ・プーチンへの最強の「切り札」
 最も注目されるのは、クリスティア・フリーランド前国際貿易大臣の外務大臣昇格である。トランプ次期大統領がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)破棄・NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉を叫ぶ中、困難なCETA(カナダ・EU自由貿易協定)を昨年まとめあげ評価された彼女に、重要な職務が引き継がれることになった。
 彼女はウクライナ系で、英語・フランス語・ウクライナ語・ロシア語・ポーランド語・イタリア語の6か国語を話す。ハーバード大学でロシア史を、オックスフォード大学セントアントニーズカレッジでスラブ語を学び、ローズ奨学金も受け取った。ジャーナリストとしてのキャリアをワシントンポスト紙とエコノミスト紙のウクライナ特派員から始め、フィナンシャル・タイムズ紙編集長・ロイター通信編集者としてイギリスとアメリカで働き、グローブ&メイル紙副編集長も務めている。アメリカ滞在時には「金権政治家:新しいグローバル・スーパー・リッチの勃興とその他大勢の没落」という著書がベストセラーにもなるなど、トランプ氏の取り巻きにも詳しい。
 グローブ&メイル紙時代の2000年、ロシアでプーチン大統領とロシア語で会談しているが、ウクライナ系の彼女はプーチン氏とその取り巻きを批判したことから、その後ロシアへの入国を禁止されている。外務大臣となった彼女が今後も入国を禁止されることはないだろうが、今回の外務大臣起用は、トランプ氏及び彼と親密なプーチン氏への強烈な牽制であることは言うまでもない。なお女性外務大臣は、1979年のフローラ・マクドナルドと1991年のバーバラ・マクドゥーガルに続き3人目となる。

 (2) 冷遇されるベテラン:ディオン氏、政界引退か
 マルク・ガルノー運輸大臣は評価が高く、より重要なポジションへ昇格するものと見られていたが、そうはならなかった。今回の改造では若い人々が起用される一方、ベテランは尊重されなかったようだ。それは、36歳で当選1回のバーディシュ・チャッガー下院院内総務が政権の中枢にいることと関係あるかもしれない。クレチエン内閣の国防大臣とマーチン内閣の退役軍人大臣を務めた当選6回のベテラン、ジョン・マッカラム移民・難民・市民権大臣(65歳)は、中国大使に転身する。
 同じくベテランのステファン・ディオン前外務大臣(61歳)は、人権侵害国と見られていたサウジアラビアに150億ドルの戦車を売却する契約に合意したことについて、保守党前政権からの合意だったためどうすることもできなかったと抗弁したが、強い批判を受けた。またカナダを訪問した中国の王毅外務大臣が、中国の人権問題について尋ねたカナダ人記者に激昂した際、ディオン氏は抗議せず、事態を傍観した。後にトルドー首相が、抗議した。
 ディオン氏は政治学者出身で、閣僚や党首まで務めたベテランだが、無愛想で、英会話力にも難点があり、外務大臣としては適任でないと言われてきた。ボブ・レイ元暫定党首は、トランプ政権の国務長官が石油大手エクソンモービルの経営者である以上、エコロジストのディオン氏が外務大臣では都合が悪いだろうと指摘した。
 また、クレチエン内閣で首席報道官を務めたピーター・ドノロ氏は、彼をこう評した。
「政治的に成功するための最も重要な要素がEQ(感情指数)だとすれば、それは彼に欠けている一つの要素である。しかし彼は知識と決断力によって、それを補ってきた。」
 匿名の自由党議員は、ディオン氏には人の心を洞察する能力が欠けていると評した。
「彼には多くの強さがある。ただ外務大臣のポストは、彼には似合わない。」
 ディオン氏は、カナダの政治史で何度か重要な役割を演じ、何度か人々を驚かせた。著名な政治学者だった彼は、ケベック独立を問う住民投票が終わった直後、事態を収拾させるためクレチエン首相に請われて、政界に入った。ドノロ氏は、ディオン氏が政治家になったのは、分裂の危機にあるカナダを救いたいという純粋な心からだったという。
 政府間関係大臣(連邦政府と州政府の外交を担当)となった彼は、明確化法を制定した。これには2つの特徴があり、一つは、州が独立するには「明確な多数」の賛成(それが何%なのか明記されていないという点において明確化されていないのだが)を要することと、もう一つは、州の一方的な意思だけで独立はできないということである。このような法律は、いったん沈静化した独立論者の火に油を注ぎ、新たな問題を生むのではないかと警告されたが、大きな反対や暴動はなく、最高裁もこの法律を支持した。
 クレチエン首相を引きずり降ろして首相になったマーチンは、クレチエン派を徹底的に冷遇したが、ディオン氏は環境大臣に任命され、京都議定書に署名した。飼い犬に「キョウト」と名づけ、緑の党のメイ党首にすら「とてもよい環境大臣」と言われた。
 2006年党首選では、本命視されたトロント大学の同級生イグナティエフとレイが意地の張り合いを演じる中、3位・4位連合を結んだディオン氏が決戦投票で逆転勝利を収め、人々を驚かせた。
 党首となった彼は、2008年総選挙を「グリーンシフト」を掲げて戦ったが、景気の足を引っ張るものと敬遠され、大敗を喫した。彼は次の党大会で辞任すると発表したが、自由党党首がレイムダックになったのを見たハーパー首相は、政党助成金の廃止を提唱し野党にとどめを刺そうとした。これに反発した野党3党は、ディオン氏を首班とする連立協定に調印した。野党3党は議会で過半数を占めていたので、彼は惨めな敗北から一転首相の地位を約束されることになったが、誰もが予想しなかった議会の停会により、議会での首班指名を阻止される。革新政党との連立に激怒した党内右派は、この隙にディオン降ろしに着手した。彼は即時の辞任を余儀なくされ、議会が再開されたときにはもはや党首ではなくなっていた。
 彼は平議員になったその後も政治活動を続け、クレチエン・マーチン・グレアム(暫定党首)・彼自身・イグナティエフ・レイ(暫定党首)・トルドーと、7人の党首の下で働き続けたが、それは彼の党派心のなさを示すものである。
 彼はトルドー首相から、EUもしくはその加盟国の大使の地位を提示されたと噂されたが、応じていない。首相は引き続き、彼にふさわしいポストを提示するというが、彼は外交官になって政界を引退するのか、それとも一介の平議員として政治活動を続けるのか、その去就は定かではない。もし彼が外交官になるなら、彼の上司はフリーランド外務大臣となる。

 (3) 新人3名を起用:注目の民主機構大臣は?
 初入閣の一人は、財務政務次官から昇格したフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ国際貿易大臣である。ディカプリオ似の三か国語を話す46歳の弁護士は、2009年世界経済フォーラムからヤング・グローバルリーダー賞を授与されている。
 新しく移民・難民・市民権大臣に就任したアーメド・ハッセン氏は、16歳のときソマリアから逃れて来た難民で、トルドー政権では初の黒人閣僚である。
 トロント市内リージェントパークの市営住宅に暮らし、高校時代は陸上選手として注目され、ヨーク大学で学ぶためガソリンスタンドで働いた苦労人でもある。彼は後にリージェントパーク評議会を設立し、この地域の再開発に尽力した。
 選挙制度改革は、もはや誰にも収拾不可能なほどにこじれてしまったが、マリヤム・モンセフ前民主機構大臣の経験不足は、混乱に拍車をかけた。今やトルドー首相は、選挙制度改革を本気で成し遂げる意欲があるのか疑問視されているが、この困難なポストに新たに割り当てられた「生贄」は、彼女よりさらに若い女性カリナ・グールド国際開発政務次官(29歳)だった。彼女は、カナダ史上最も若い女性閣僚である(最も若い閣僚はジャン・シャレーの28歳)。
 彼女はオックスフォード大学で国際関係学を学び、選挙制度改革についての論文を書いた。その後は貿易と投資のコンサルタントとして働き、メキシコの孤児院で1年間ボランティアも経験している。彼女と親しいオンタリオ州のエレノア・マクマホン観光大臣は、グールド大臣を「党派心のない人」と言う。
 トルドー首相は記者会見で、モンセフ大臣をなぜ異動させたのかという質問には答えず、選挙制度改革への意欲を語った。
「私は引き続き、選挙制度改革に邁進する。それには疑問の余地はない。マリヤムがこれまで行ってきた、我々の民主主義を促進するベストな方法について国民と対話するという並外れた任務を、カリーナとともに続けていく。」
 選挙管理委員会は、2019年秋までに実施される次の総選挙を新しい選挙制度で行うためには、関連法案が夏までに上程される必要があると答申している。
 モンセフ前民主機構大臣には、女性の地位担当大臣という「ふさわしいポスト」が与えられた。
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 女性の地位担当大臣だったパティー・ハイデュ氏は、雇用・労働力開発・労働大臣に異動する。このポストに就いていたメリーアン・ミハイチャック前大臣には、新しいポストは与えられず、閣外に去ることになる。
「私はもちろん、失望しています」と、彼女は語った。
「私は人として、女性として、雇用のために常に戦ってきました。そしてこれからも、そうし続けていきます。」
 彼女は労働大臣として、自分のリーダーシップの下で、児童労働を禁止する国際的合意に加わり、臨時雇いの外国人労働者の権利を擁護し賃金の平等を実現するための骨格を作ったと、誇らしげに語った。
「最終的には、40年後に、女性労働者は男性と同じ賃金を得るでしょう。」


写真:左からフランソワ=フィリップ・シャンパーニュ国際貿易大臣、アーメド・ハッセン移民・難民・市民権大臣、カリナ・グールド民主機構大臣。
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