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「スコットランドの一番長い日」:独立派はケベックから何を学んだか [欧州]

 9月18日に実施されたスコットランド独立を問う住民投票は、賛成46%・反対54%で否決された。

 スコットランドとケベックには、多くの類似点がある。ともに征服された歴史がある。左寄りで、福祉や環境への関心が強い。
 しかし両国には、相違点も多い。スコットランドはかつて独立国だったが、ケベックは独立国だったことがない。ケベックは残りのカナダと言語・文化が異なるが、スコットランドとイングランドはそうではない。スコットランドは人口・面積・経済規模も小さいが、ケベック州は面積最大の州で、人口と経済規模は2番目に大きい。スコットランドはブリテン島の北の端だが、ケベックはカナダの中央にある。ユーゴ解体で生まれた新興国やスコットランドは近くに国が多いが、独立したケベックには近くに国はアメリカとカナダしかなく、両国と対立する政策は絶対に採れない。

 スコットランド独立クルセーダーであるアレックス・サモンド首相は、ケベック独立を問う過去の住民投票を良く研究した。そこから彼は、失敗に終わったケベックの真似をしないことを学んだ。
 1995年の住民投票に敗れたジャック・パリゾー首相は、「金とエスニックのせいで負けた」と口走った。それは、「ケベック独立」が全てのケベック住民のものではなく、もっぱらフランス系住民のものだったという本音を正直に吐露したものだった。フランス系住民の多くは「イエス」に投票したが、アングロフォンとアロフォン(母語が英語でもフランス語でもない人)は「ノー」に投票した。そしてこのときを最後に、独立を問う住民投票は行われていない。2011年の前回連邦議会選挙でケベック連合が、そして2014年の前回ケベック州議会選挙でケベック党がそれぞれ壊滅的敗北を喫し、独立派は勢いを失っている。たとえ再び住民投票を行うことがあったとしても、それがフランス系住民のためのものであり続けるかぎり、非フランス系は反対し続け、独立が達成されることはないだろう。
 サモンド首相はこの経験に学び、つとめて少数民族と接触した。スコットランド独立運動がケベック独立運動と決定的に異なるのは、後者が極めて民族主義的であるということである。ところがスコットランド独立運動は、自分たちの政治・自分たちの資源の使い方は、ロンドンではなく自分たち住民が決めるべきだという、住民自治の発想に基づいている。それゆえスコットランド在住イングランド人の間にも、関心が高いのだ。「異民族」を排除しようとしたパリゾー首相は、即日辞任を余儀なくされた。
 今回設問をシンプルにしたことは、相違点の一つである。1980年住民投票では、非常に長く難解な用語を並べたうえで、「主権・連合」論の是非を具体的に問うた。

“Le Gouvernement du Québec a fait connaître sa proposition d’en arriver, avec le reste du Canada, à une nouvelle entente fondée sur le principe de l’égalité des peuples ; cette entente permettrait au Québec d'acquérir le pouvoir exclusif de faire ses lois, de percevoir ses impôts et d’établir ses relations extérieures, ce qui est la souveraineté, et, en même temps, de maintenir avec le Canada une association économique comportant l’utilisation de la même monnaie ; aucun changement de statut politique résultant de ces négociations ne sera réalisé sans l’accord de la population lors d’un autre référendum ; en conséquence, accordez-vous au Gouvernement du Québec le mandat de négocier l’entente proposée entre le Québec et le Canada?”(筆者訳:ケベック州政府は、国家としての平等に則り、それ以外のカナダとの新しい協定について交渉するという提案を発表する。その協定は法律を制定し、税を課し、諸外国との関係を構築する独占的な権限―換言すれば主権―をケベックに与える。また同時に、カナダとの間に通貨を含む経済的連合関係を継続する。これらの交渉から生じるどのような政治的変化も、別途行われる住民投票の承認を経て実行されるに過ぎない。これらの条件においてあなたは、提案された協定についてカナダと交渉することをケベック州政府に委託しますか?)

 問われているのは、具体的な「主権・連合」論である。ケベック独立論には様々なバリエーションがあるが、独立を問う1980年と1995年の二度の住民投票では、この「主権・連合」論の是非が問われた。「主権・連合」論とは、主権国家であるケベックが、残りのカナダと経済的パートナーシップを結ぶという、ECをモデルにした構想である。今日ケベックには、「主権・連合」論以外の独立論は事実上存在しないと考えてよいし、ケベックでは「独立派」とは呼ばず「主権派」という呼称が用いられる。
 サモンド首相は、スコットランド独立を問う住民投票では、極めてシンプルな設問を用意した。

“Should Scotland be an independent country?”(スコットランドは独立国となるべきですか?)

 サモンド首相は、「残りのイギリス」との通貨同盟について明言はしたものの、設問ではそれに触れていない。それゆえ彼は、通貨問題について投票結果に拘束されることがなく、フリーハンドを保持していることになる。
 だがサモンド首相ら独立派は、イギリス政府の「ポンド使用拒否」に発言に遭い、通貨問題について明確なロードマップを提示できなかったばかりか、住民を経済的不安に陥れることになった。スコットランド独立派は、ケベック主権派と異なり、経済の先行きについて具体的に明示することができなかったのだ。短く単純な設問は投票率を上げることには成功したものの、その内容を具体化することには失敗したのだった。
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