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トリーチャー・コリンズ症候群の歌手をからかったコメディアン、逆転無罪に [人権]

 トリーチャー・コリンズ症候群(下顎顔面異骨症)の歌手をからかうジョークを連発したコメディアンが告発された件で、連邦最高裁は10月29日、下級審の判決を覆し、被告を無罪とした。
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 ジェレミー・ガブリエル氏(24歳)はトリーチャー・コリンズ症候群を患っているが、少年時代から歌手として活動し、教皇ベネディクト十六世の前や、モントリオール・カナディアンズの試合などで歌ってきた。これに対しコメディアンのマイク・ウォード氏が「サブウーファが頭の上にある」「病状が末期的なので(※実際には誤り)溺れさせて死なせてあげよう」などと繰り返しジョークのネタにした。ガブリエル氏はそれから学校などでいじめられるようになり、自殺も考えたという。
 本件は、人権とコメディアンの表現の自由が争われたカナダ史上初のケースとして、法律家やコメディアンに注目された。ウォード被告は、ケベック州のセレブたちは「神聖にして不可侵」であり、あまりに金持ちであまりに権力を持ちすぎているため、からかいの的にはならないのだと語った。そして、もし最高裁で敗訴が確定した場合は「シリアかサウジアラビアか、カナダと同じくらい表現の自由が尊重されている国に引っ越すつもりだ」とジョークを飛ばした。
 ケベック人権裁判書は2016年7月20日、ガブリエル氏に3万5000ドルとその母親に7000ドルを支払うよう、ウォード被告に命じた。被告は控訴したが、ケベック控訴裁判所は2019年11月28日、一審判決を支持し、被告にガブリエル氏への3万5000ドルの支払いを命じた。差別の被害者ではないという理由で、母親への支払いについては退けた。
 今回の最高裁の判決は、5対4の僅差となった。判決文は、ケベック人権憲章のもとに保護されている尊厳と、言論の自由とのバランスを考慮するとき、2段階のテストが行われなければならないと述べた。第一のテストでは、ウォード被告の発言が被害者をその障害に基づき中傷するよう刺激することを意図したかどうか、そして第二のテストでは、発言が被害者の差別を導いたかどうかが検証された。そして「我々の見解では、ウォード氏によってなされたコメントは、これらの2つの要件のどちらも満たさない」、また同級生や誰かが彼のジョークを真似て言ったことについて被告に責任を問うことはできない、と判断した。
「非難されたコメントは、この種のユーモアで知られている職業コメディアンによって作られた。それらは、正しくまたは誤って、楽しませるために不快の感覚を利用したが、それ以上のものではなかった。」
 多発性・先天性の骨格筋異常を患っているコメディアンのマイケル・リフシッツ氏は、本件訴訟について次のように述べた。
「私の障害にまつわる私のジョークは、ポリティカル・コレクトネスに合致しないから、自分で自分を訴えるつもりだ。」
「この訴訟が実際にどうやってインクルージョン(包摂性)の問題を前進させるのか、どうやっていじめの被害者を減らすのか、わからない。」
 判決を受けてガブリエル氏は、もしウォード被告と話す機会があれば、彼のジョークがどれほど彼の人生に影響を与えたかについて語るだろうと述べた。
「私が初めてジョークを聞いたとき、どう感じたかを彼に話したい。私は、自ら命を絶とうとした。」
「13歳の私がどう思ったか・・・40歳の人があなたは死ぬべきだと言い、それを正しい行為だと考えたことについて。」
 いっぽうウォード被告は、裁判についてこう述べた。
「勝ってもうれしくない。ほっとしている。」
「ジェレミー、もし聞いているなら、君の人生の幸運を祈ってるよ。」


写真:ジェレミー・ガブリエル氏(左)とマイク・ウォード被告(右)。
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