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カナダの中絶事情 [人権]

 アメリカで連邦最高裁が、1973年に妊娠中絶を合法化した「ロー対ウェイド」判決を覆す原案を起草していることが5月2日にリークされ、カナダ政界にも影響を与えている。
 カリナ・グールド家庭・子供・社会開発大臣は3日、CBCテレビで「もしアメリカがロー対ウェイド判決を覆したら、アメリカの女性はカナダで中絶することができる」と語った。トルドー首相も同日「カナダではあらゆる女性に、安全で合法な妊娠中絶を受ける権利がある」と語った。
 だがオタワ大学で法学を教えるダフニ・ギルバート教授は、首相の発言を批判する。カナダにおける最近の判例は、1988年のモーゲンテイラー裁判で、連邦最高裁は中絶を規制する全ての法律は違憲と判断したが、これまで最高裁は「中絶する権利」について言及したことはないからである。
 トロント大学のバーナード・ディケンズ名誉教授も、これに同意する。
「それは、中絶権を真に確立するものではなかった。それは単に、刑事罰を廃止したに過ぎない。」
 だがギルバート教授は、88年以降の判例は、中絶する権利を事実上支持していると考えることができると指摘する。彼女は安楽死幇助を例に挙げ、「意思決定、管理、身体の自治、良心の自由」を中絶に当てはめれば、同じ結論になるだろうと言う。また保健は州の管轄であるから、連邦政府が刑法によって妊娠中絶を管理する試みは、違憲立法となる疑いがある。
 保守党のキャンディス・バーゲン党首は10日、連邦議会で「妊娠中絶を受ける機会は(保守党の)ハーパー政権で制限されなかった。保守党は妊娠中絶について、法案を提出しないし、議論を再燃させない」と述べ、「議論を再開しているのは自由党だけ」と批判した。
 だが彼女は知らなかったが、それより2時間早く議事堂で保守党のアーノルド・ビアセン議員が、記者たちによる囲み取材で「私は、議論は終わっていないと考えている」と語っている。
 カナダの二大政党である自由党と保守党には、伝統的に中絶賛成派と反対派が混在しており、自由党には賛成派が、保守党には反対派が多いと考えられてきた。だが自由党は、2013年にジャスティン・トルドーが党首に就任したとき「中絶反対派は公認しない」と公言したため、今では反対派はいないと思われる。
 それに対し、保守党の立場はいくぶん複雑である。カナダ保守党は、2003年に右翼のカナダ同盟と中道右派の進歩保守党が合併して成立したことから、初代党首のハーパーは分裂を回避するため、個人的信条とはうらはらに「保守党政権は、妊娠中絶を規制するいかなる法律も支持しない」という綱領を採択した。保守党は現在党首選の最中だが、本命視されているピエール・ポワリエーブル議員も対抗馬と見られるジャン・シャレー元州首相も、同様のコメントをしている。だがそのいっぽうで保守党は「医師・看護士・その他の医療従事者が妊娠中絶、自殺幇助または安楽死に加担し、あるいはそれらに彼らの患者を照会することを拒否する良心の権利を支持する」「妊娠中絶は、カナダの母子保健プログラムから明確に除外されなければならない」とも盛り込んだ。
 幹部会で採択された議案には党議拘束がかかるので、違反すると党から罰せられる。だが個々の議員は中絶を規制する法案を個人提出でき、この場合党議拘束はなく自由投票となる。最近の例では2021年、保守党のキャセイ・ウェイゲントール議員が性選択的中絶を禁止する法案を提出したが、保守党議員81名と元保守党議員1名の賛成のみで、否決された。

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