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シーア党首が辞意を表明 [保守党]

 保守党のアンドリュー・シーア党首は12月12日、下院での演説で党首を辞任する意向を表明した。次の党首が選出されるまでは職にとどまり、また「当面は」下院議員を続ける。

 (1) 若くて古い人
 トルドー首相に関するあまりに多くのスキャンダルがあるにもかかわらず、そして支持率では自由党を上回っていたにもかかわらず、シーア党首は勝ちきれなかった。彼は若いのに、同性婚や妊娠中絶などの社会問題について徹底的に守旧派であり、プライド・パレードの行進に主要政党党首で唯一参加しなかったため、テレビ討論ではそれらの社会問題について追及され、国民が真に望んでいた経済などの問題に焦点を当てることに失敗した。「笑顔のあるハーパー」と呼ばれた彼は、予算の均衡、減税などハーパー首相の政策を忠実にコピーし、地球温暖化対策を提示することすらしなかった。そして総選挙敗北にもかかわらず、彼は方針を改めようとせず、スタッフも刷新しようとしなかったため、党内では公然と辞任を要求する声が挙がっていた。
 カナダの政治的潮流は、ハーパー時代から大きく動いている。今では信じがたいことだが、そのころの自由党には中絶反対の議員がいた。トルドー氏が党首となってから、中絶反対派は公認しないと決めたので、いなくなったのである。今では保守党は、2016年に同姓婚廃止を綱領から削除したものの、中絶反対を表明する唯一の主要政党である。国民の中にそのようなニーズがある以上、また保守党が保守派である以上、何も変える必要はないとシーア党首は判断したのだろう。
 だがトルドーは2015年総選挙で、財政赤字を恐れず景気を刺激すると発表し、政権を奪取した。彼は首相として初めて、プライド・パレードで行進した。反対の声が挙がっても、炭素税を導入した。トルドー首相に叩けば出る埃が多くあった以上、もう少しましなポリシーを掲げもう少しましな戦略を練れるリーダーだったら保守党は選挙に勝てたかもしれないと、人々は考えただろう。
 シーア党首は総選挙以降、彼がトルドー政権に最初の一撃を加え、その終焉を早めたと主張した。彼は辞任を公表した下院での演説で、こう述べた。
「私はこの党を信じている。私は我々の動向を信じている。そして私は、選挙の後で我々が政権に就くと信じている。」
 25歳で下院議員となり、史上最年少の32歳で下院議長を務め、38歳で党首に就任した彼は、40歳の若さでそのキャリアを終える。終わった時代のアジェンダに固執した人として。
 レジェ・マーケティング社による世論調査は、新民主党支持者が議席を減らしたシン党首について、留任すべきが87%・辞めるべきが6%だったのに対し、保守党支持者が議席を増やしたシーア党首については、留任すべきが48%・辞めるべきが40%という対照的な結果を示していた。全てのカナダ人の間では、シン党首は留任すべきが52%に対し、シーア党首は留任すべきはわずか24%だった。

 (2) シーア党首は家族を理由に挙げた
 シーア党首は先々週、帰宅すると息子の一人と話した。野党第一党党首は公職で、オタワに公邸が用意されていることから、妻と5人の子供たちとともにリジャイナから転居した。子供たちも転校を余儀なくされたが、多忙な日々の中で彼は、自分がいかに子供たちの状況を理解していないかを気づかされたという。
 彼は下院でこう演説した。
「私は同僚たちに、常に誠実だった。私は誰にでも、常に誠実だった。そして前途にある負担が家族にかかることを知りながら、100%の完全な平安を保証をすることができなかった。」

 (3) 経費私的流用問題
 シーア党首は辞任を公表する前に、12日午前の臨時幹部会でその意向を保守党議員たちに表明している。実は前日11日にも幹部会が招集され、その日辞意を表明するつもりでいたが、アメリカ・メキシコとの新しい貿易協定に関する情報が入って来て、その対応について協議したため、言い出せなかったという。それで翌12日に臨時幹部会を招集し、辞任を発表したのだという。
 だが匿名の情報源は、異なる筋書きを説明する。党はシーア党首の転居費用を負担することになっていたが、子供たちをオタワの私立校に通わせるための授業料まで負担させていたことが10日に発覚した。シーア党首の側近は、彼の党首就任時に党重役たちに承認されたことであり、問題はないとしているが、党の経理担当者は知らされていなかったという。「最小限」とされた費用は、実際には数千ドルにも達していた。この件が極秘情報だったことは明らかであり、党中枢の誰かがシーア党首を追い落とすためにマスコミに暴露したのは確実だった。
 ハーパー前首相の側近だったジェニー・バーン氏は、「擁護できない」と明確に非難した。
「党の経費で子供を私立校に入れた党首など、私は一人も知らない。」
「皆は、これが不適切で容認しがたいと感じている。これらは転居費用でなく、生活助成金である。」
 ジャン=ギ・ダジュネ上院議員も、シーア党首は経費を払い戻すべきだと力説した。
 シーア党首の事務所は、授業料問題が辞任の理由ではないという声明を発表した。党経理担当は、辞任発表まで授業料問題を知らず、調査を開始しようとしたとき「偶然にも」辞任が発表されたと、わざわざ説明した。
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 (4) 後任は誰か
 サッチャーやコールのような長期政権の後は、後継者が頼りなく見られるのか、野党に転落している。池田や佐藤のようなリーダーは後継者を育てているが、「安倍の次は安倍」などと言われている人は、引退後はどうするつもりだろうか。
 ハーパー前党首(前首相)は、引退後を引き継ぐ後継者を育てるのではなく、自分の立場を脅かしそうなナンバー2を次々と排除した。そのため有力な後継候補はみな政界引退に追い込まれ、後継党首は閣僚経験もない38歳のシーアだった。
 ナンバー2と言われてきたジム・プレンティス元環境大臣は、引退して銀行家となり、後にアルバータ州首相になったが、事故死した。ジョン・ベアード元外務大臣も、突如引退した。ジェームズ・ムーア元産業大臣も、息子の病気を理由に引退し、法律事務所で働いている。
 本人が何度否定しても、その都度党首の座を狙っていると言われ続けているピーター・マッケイ元外務大臣も、結婚して「家庭の事情」を理由に突如引退し、弁護士を務めている。シーア党首の辞任発表で、彼はまたしても大本命と言われている。
 2017年の党首選を沸かせたケビン・オリアリー氏とマクシム・ベルニエ氏は、ともに党首選出馬の噂を一蹴した。ベルニエ氏は人民党党首であり、骨肉の総選挙を戦ったばかりである。
 ハーパー政権の「影の実力者」ジェイソン・ケニー元国防大臣は、アルバータ州首相になったばかりで、考えていないという。オンタリオ州のダグ・フォード首相も、興味がないと語った。
 穏健派のエリン・オトゥール元退役軍人大臣は、2017年党首選で3位になり、有力視されている。
 リサ・レイト前副党首も有力視されているが、同じ選挙区に金メダリストのアダム・バン=コーバーデンがいて落選中である。
 マイケル・チョン元政府間関係大臣は、2017年党首選で5位に敗れている。
 ブラッド・トロスト前議員は、著名な社会保守主義者で、妊娠中絶非合法化を今も主張し続けている。2017年党首選で4位に敗退したが、党内基盤の弱いシーア氏を支持し当選させた。シーア党首が社会保守主義的政策に固執したのは、トロスト氏ら社会保守主義者に支えられているからであり、総選挙敗北の元凶と見られている今、当選への道は険しい。保守党は近い将来、妊娠中絶非合法化を放棄し、従来型の社会保守主義者は居場所を失うのではないだろうか。
 彼は党首選で、党員リストを外部に漏洩した疑惑を持たれ、選挙区での予備選で落選し総選挙に立候補できなかった。
 オンタリオ州のキャロライン・マルローニ運輸大臣は、ブライアン・マルローニ元首相の娘で、名を挙げられている。2018年のオンタリオ進歩保守党党首選で、彼女は政治歴がないのに立候補を要請され、3位となった。
 ミシェル・レンペル・ガーナー前西部経済多様化大臣の名を挙げる人もいる。彼女は妊娠中絶や同性婚に寛容な「ピンク・トーリー」で、社会保守主義が強い批判に晒されている今はチャンスと言えようが、39歳と若く、これからの人だろう。
 リオナ・アレスレフ副党首は、自由党から移籍してまだ日が浅い。シーア党首から副党首に抜擢されたが、プライド・パレードに参加しない彼をかばおうとして「(アイルランド人の)セント・パトリック・デーの祭に参加を強制する人はいない」と発言し、一昔前には差別されていたアイルランド人を、現在差別されているLGBTに譬えたことを批判され、謝罪した。
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 サスカチュワン州で長期保守政権を築いたブラッド・ウォール前首相は、何度も連邦保守党党首の地位を打診され、その都度断り、引退して2年経つが今でも名を挙げられる。彼は出馬を否定したが、ロナ・アンブローズ前暫定党首の出馬を望むと語った。
 2015年総選挙敗北を受け、暫定党首に就任した彼女は、党首選を無事に終わらせると政界を引退した。彼女はまた、プライド・パレードに参加した初の(連邦)保守党党首である。任期中には、先住民の女性が多数行方不明になっている問題について、ジョディ・ウィルソン=レイボールド法務大臣に会い「できることは何でもする、これは党派を超えた問題だから」と言って協力を約束した。また新任の裁判官に性的暴行プログラムの履修を義務づけたのは、彼女が個人提出した法案が成立したものである。
 ウォール氏は、党派に固執しない彼女が党首なら、党は結束できると語った。
「党は、社会保守主義的問題に集中しない。彼女は彼らに対し、異なる姿勢をとる。」
「我々は、経済問題に立ち返る。」
 西部の疎外感が原因で、西部分離主義「ウェグジット」が盛り上がる兆候を見せている。ウォール氏はそれを抑えるためにも、アルバータ出身のアンブローズ氏が適任だと推薦した。
 自由党もまた、彼女を高く評価している。トルドー首相は、アメリカ・メキシコとの貿易協定の顧問団に、彼女を加わえた。首相が彼女を駐米大使に任命するという推測もある。


図上:保守政党党首の、総選挙敗北から辞任までの日数。
写真下:ブラッド・ウォール前首相(左)とロナ・アンブローズ前暫定党首(右)。
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高橋幸二

https://www.cbc.ca/news/politics/scheer-conservative-leadership-contenders-1.5393809
CBCの記事で、クリスティ・クラークBC州前首相の名が挙げられていますが、勘弁してほしいです。長期政権の最後は見苦しいものでした。
https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=1611536&page=1&id=82566373
by 高橋幸二 (2019-12-16 00:12)