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トルドー内閣改造、フリーランド氏副首相に [自由党]

 2期目を迎えたトルドー首相は11月20日、大規模な内閣改造を行った。首相を除く閣僚は、34人から36人に拡大し、男女は同数である。

総理大臣 ジャスティン・トルドー
副総理大臣兼政府間関係大臣 クリスティア・フリーランド
復員軍人大臣兼国防副大臣 ローレンス・マコーレー
政府=先住民関係大臣 キャロリン・ベネット
枢密院議長 ドミニク・ルブラン
イノベーション・科学・産業大臣 ナブディープ・シン・ベインズ
財務大臣 ビル・モルノー
外務大臣 フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ
家庭・児童・社会開発大臣 アーメド・ハッセン
運輸大臣 マルク・ガルノー
農務・農産食品大臣 マリー=クロード・ビボー
移民・難民・市民権大臣 マーコ・メンディチーノ
経済発展大臣兼公用語担当大臣 メラニー・ジョリー
歳入大臣 ディアーヌ・ルブティリエ
環境・気候変動大臣 ジョナサン・ウィルキンソン
国防大臣 ハルジット・サジャーン
天然資源大臣 シーマス・オリーガン
女性の地位・男女平等大臣兼地方経済開発大臣 マリヤム・モンセフ
公共サービス・調達大臣 アニータ・アナンド
中流階級繁栄大臣兼財務副大臣 モナ・フォルティエ
雇用・労働力開発・障害包含大臣 カーラ・クワルトロー
多様性・包含・青年大臣 バーディシュ・チャッガー
インフラ・地域社会大臣 キャサリン・マッケナ
国際開発大臣 カリナ・グールド
予算庁長官 ジャン=イブ・デュクロ
厚生大臣 パティ・ハイデュ
先住民サービス大臣 マーク・ミラー
下院院内総務 パブロ・ロドリゲス
公安・非常時対応準備大臣 ビル・ブレア
中小企業・輸出振興・国際貿易大臣 メアリー・ン
労働大臣 フィロメナ・タッシ
漁業海洋・カナダ沿岸警備隊大臣 バーナデット・ジョーダン
法務大臣兼司法長官 デビッド・ラメッティ
民族遺産大臣 スティーブン・ギルボー
デジタル政府大臣 ジョイス・マレイ
シニア大臣 デブ・シュルツ
北方問題大臣 ダン・バンダル
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 重量級閣僚では、ビル・モルノー財務大臣とハルジット・サジャン国防大臣が留任したが、今回の改造では5つの注目すべき異動がある。

 (1) フリーランド氏、副首相に
 クリスティア・フリーランド外務大臣は、副首相兼政府間関係大臣に任命された。外務大臣から政府間関係大臣への異動は、副首相の肩書きなしには降格のように映るだろう。
 彼女はトルドー政権において、まず国際貿易大臣としてCETA(カナダ・EU自由貿易協定)をまとめあげ、首相の最も信頼する閣僚の一人となり、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉を叫ぶトランプ大統領が就任すると、外務大臣に昇格した。政府間関係大臣は連邦政府と州政府の外交を担っており、アルバータ州のジェイソン・ケニー首相、サスカチュワン州のスコット・モウ首相、オンタリオ州のダグ・フォード首相など地方で続々と誕生する反トルドー政権との交渉を担うことになる。
 彼女の選挙区はトロントだが、アルバータ州ピースリバーで生まれ、少女期をエドモントンで過ごしている。彼女は1日「私のオリジナルは、誇り高いアルバータ人だ」と語っているが、アルバータとサスカチュワンから締め出され、それらの州から閣僚を任命できなくなったトルドー首相の苦肉の策でもある。
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 副首相は、現首相の父ピエール・トルドー首相によって1977年初めて任命された。ハーパー首相とジャスティン・トルドー首相は副首相を置かなかったので、副首相は14年ぶりに任命される。
 副首相には法律上の規定がなく、決まった任務もない。副首相の任務は一般に、首相が公務や外遊で不在のとき、閣議の議長を務め、議会の質問に答弁することだと考えられている。シーラ・コップス副首相は、引退後「副首相の職務は往々にして、議会での質疑応答から首相を保護することだった」と綴っている。
 アメリカで大統領が辞任もしくは死去した場合、副大統領が継承する規定があるが、カナダの副首相は首相が辞任もしくは死去した場合、その地位を自動的に継承する規定はない。不測の事態における首相職の継承については、閣僚の優先順位を定めておくことになっている。伝統的には、副首相か下院院内総務が継承順位1位になっていたが、トルドー政権では副党首のラルフ・グッデイル公安・非常時対応準備大臣が継承順位1位に規定されていた。しかしメディアは、首相の幼馴染で側近のドミニク・ルブラン氏を政権ナンバー2とみなしてきた。
 カナダの首相が、総選挙の敗北によらず突然辞任した前例は、戦後ではない。ジョン・マクドナルド首相が1873年パシフィック・スキャンダルで辞任したとき、与党保守党は下野したので自由党に政権が移ったが、自由党は党首が落選していたため、後継総理を3人の候補に断られ、4人目のアレクサンダー・マッケンジーが受諾するという難産だったが、前首相死去の2日後に総理就任している。ジョン・アボット首相が1892年病気で辞任したときは、ジョン・トンプソンが11日後に総理就任している。マッケンジー・ボーウェル首相が1896年突然政権を投げ出したときは、チャールズ・タッパーが4日後に総理就任している。
 カナダの首相が現職で死去した例は、1891年のマクドナルドと1894年のトンプソンの2度ある。前者は10日後にアボットが、後者は9日後にボーウェルが後継総理に就任しているが、辞任と死去のいずれの例においても、全党員による党首選のない時代なので、後継総理は選挙で選ばれてなく、またいずれの例においても臨時首相は指名されていない。
 現代では、現職首相が突然辞任もしくは死去した場合、党首選で次の党首が選ばれるが、それには時間がかかることから、継承順位に従い臨時首相が総督によって指名されるだろう。ただし州レベルにおいては、臨時首相を置くことなく、与党幹部会で党首選が速やかに実施され、副総督によってただちに次の首相が指名されている。
 これまで、アラン・マキーチェン(ピエール・トルドー内閣)、ジャン・クレチエン(ターナー内閣)、エリック・ニールセン(マルローニ内閣)、ドン・マザンコウスキー(マルローニ内閣)、ジャン・シャレー(キャンベル内閣)、シーラ・コップス(クレチエン内閣)、ハーブ・グレイ(クレチエン内閣)、ジョン・マンリー(クレチエン内閣)、アン・マクレラン(マーチン内閣)の9人の副首相がいた。アメリカの副大統領には決まった任務がなく、しばしば実力者を祭り上げる目的に使われることがあるが、グレイ以外の副首相全員は、副首相以外の閣僚ポストを兼任していた。
 9人の副首相のうち4人が党首選に立候補し、コップスとマンリーは落選した。党首になれたのはシャレーとクレチエンの2人で、首相になれたのはクレチエンだけである。チャールズ・タッパー、リチャード・ベネット、ジョン・ターナー、ジャン・クレチエン、ポール・マーチンの5人の財務大臣が首相になったこととは対照的で、このことから副首相は、しばしば政権内ライバルを牽制する目的で設置されていることがわかる。

 (2) 注目の4人
 フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ インフラ・地域社会大臣は、外務大臣に昇格した。中国で拘束されているマイケル・コブリグ氏マイケル・スパバー氏の解放が、彼の当面の課題である。
 当選6回のベテラン、パブロ・ロドリゲス民族遺産・多文化大臣は、下院院内総務に昇格した。安定政権から少数政権に転落したトルドー政権は、何を可決させるにも他党の協力が必要となる。下院院内総務の役割は、これまで以上に重要なものになるだろう。またケベック選出の彼は、ケベック副官も務める。
 キャサリン・マッケナ環境・気候変動大臣は、インフラ・地域社会大臣に異動する。アルバータ州のケニー首相は、マッケナ大臣を反パイプラインと決めつけ、彼女には別の任務が必要だと公然と主張した。この異動は、トルドー首相によるケニー首相への譲歩と見られる。
 シーマス・オリーガン先住民サービス大臣は、天然資源大臣に異動する。産油州のアルバータとサスカチュワンには自由党議員がいないが、彼は産油州ニューファンドランド&ラブラドル選出である。彼はまた、トルドー首相の親友として知られる。

 (3) 新入閣は7人
 スティーブン・ギルボー議員は、民族遺産大臣に任命された。グリーンピースなどの環境保護団体で活動してきた彼は、自由党の目玉候補として今年初めて立候補し、当選1回で大臣となった。彼は当然環境大臣に任命されると思われたが、それではアルバータとサスカチュワンの反発を招くため、回避したものと見られる。
 マーク・ミラー政府=先住民関係政務次官は、先住民サービス大臣に昇格した。彼は地道にモホーク語を学び、2017年に史上初めて連邦議会でモホーク語で演説した。
 マーコ・メンディチーノ政務次官は、移民・難民・市民権大臣に昇格した。
 デブ・シュルト議員は、シニア大臣に任命された。
 ダン・バンダル議員は、北方問題大臣に任命された。
 モナ・フォルティエ議員は、中流階級繁栄大臣兼財務副大臣に任命された。
 アニータ・アナンド議員は、公共サービス・調達大臣に任命された。彼女は、トロント大学で法学を教える教授である。

 (4) 閣外へ
 カースティ・ダンカン科学・スポーツ大臣は下院院内副総務に、ジネット・プティパ=テイラー厚生大臣は下院副幹事長に任じられ、閣外に去った。
 マニトバ選出のジム・カー国際貿易多様化大臣は、癌の治療に専念するため内閣から外れた。トルドー首相は、彼にいずれ中西部担当の任務を与えるつもりのようだ。
 ラルフ・グッデイル公安・非常時対応準備大臣とアマルジート・ソーヒ天然資源大臣は、落選したため閣僚ポストを失った。

 (5) 他党の反応
 保守党のシーア党首は、自由党がアルバータとサスカチュワンから締め出され、安定政権から過半数割れに転落した選挙から首相は何も学ばなかったと評した。その証拠に、彼は著名な反パイプライン活動家を入閣させたと非難した。
 ケベック連合のブランシェ党首は、ギルボー氏の処遇に不満を述べた。
「トルドー首相はアルバータと向き合う勇気がなく、アルバータと彼の政府の間でこれ以上の憎悪をひき起こしたくなかったので、ギルボー氏が環境大臣に任じられなかったと、私は信じている。」
 対照的にアルバータ州のケニー首相は、ツイッターで歓迎の意を表明した。それはあたかも、連邦政府への勝利宣言のようだった。
「連邦内閣閣僚として今日宣誓した方々全員に、おめでとう。アルバータ州政府は、確実な資源開発を通して、雇用と成長を創出し、カナダの連合において公正さを確実にするための、共通基盤をと連邦政府とともに見出せるよう望んでいる。」
「私は特に、中西部特命大臣と、政府間関係大臣と、天然資源大臣とともに働くことを楽しみにしている。」
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