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明日投票日、自由党少数政権か [2019年下院選]

 CBCが10月20日に発表した政党支持率調査は、保守党32.0%、自由党31.8%、新民主党18.0%、緑の党7.7%、ケベック連合7.1%、人民党2.5%、その他1.0%という結果となった。ここから導き出される予想獲得議席は、自由党136(90~190)、保守党124(82~171)、ケベック連合40(21~50)、新民主党36(16~62)、緑の党1(1~6)、人民党1(0~1)、その他0(0~1)(定数338議席、括弧内は最小と最大議席)となる。CBCは自由党少数政権の確率を48%、保守党少数政権の確率を37%、自由党過半数の確率を12%、保守党過半数の確率を2%と予測した。

 トルドー首相が議会を解散し選挙戦が始まったとき、自由党と保守党の支持率は33.8%だった。連邦議会選挙では、得票率38.5%未満で過半数を制した例はない。だが新民主党とケベック連合が低迷していたため、二大政党には過半数への望みがあった。しかし選挙戦終盤で新民主党とケベック連合が支持率を上げたため、過半数獲得の可能性は非常に低い。
 保守党は接戦選挙区の全部を獲らないと過半数に達しないのに対し、自由党は過半数獲得の望みをまだ残している。あらゆるデータは、明日の総選挙は自由党が過半数割れながら政権を維持することを示している。
 ケベック連合は、1993年から2008年までケベックの第一党であり続けたが、2011年総選挙で4議席の惨敗を喫し、その後所属議員が多数離党して「数年で消滅する」と言われてきた。だが民族主義を前面に掲げたアピールがケベックの有権者に受け、選挙戦終盤でケベックでの支持率を序盤より10ポイント以上も上げ、かつての野党第二党とケベック第一党の地位を奪回できそうだ。
 新民主党は、シン党首が英語のテレビ討論で高い評価を受け、支持率を5ポイントほど上げたことで、ブリティッシュコロンビア・オンタリオ・東部で議席を上積みし、30議席以上獲れそうだ。ケベックでは依然として苦戦しているものの、一時は全滅と言われていたが、2人程度は当選の見込みが出て来た。選挙期間中に運動せずカジノで遊んで当選し有名になったルース・エレン・ブロソー議員は、今では下院院内総務だが、ケベック州が選挙区である。
 緑の党は、過去の総選挙にはなかった高支持率だが、新民主党とケベック連合の左派2党が支持率を上げたのに対し、一時は2桁あった数字をじりじりと下げ、当選確実な候補は1人しかいない。

 (1) 3つの主戦場
 今回総選挙には、3つの主戦場がある。トロント郊外、ケベックのフランス語地域、ブリティッシュコロンビアのローワー・メインランドである。
 GTAと呼ばれるグレーター・トロント・エリアは、カナダ10州のうちオンタリオとケベック以外の8州より多くの議席を持つ。トロント市内は自由党の牙城だが、トロント郊外は自由党と保守党が近年接戦を続けており、ほんのわずかな風向きで結果が大きく動く。これら接戦選挙区の大多数を自由党が運良く掴むことができれば、過半数への道が拓けて来るが、保守党に相当数の議席を譲った場合、どちらが勝っても少数政権になるだろう。
 ケベックでの政党支持率は、自由党32.9%、ケベック連合30.3%、保守党14.8%、新民主党12.6%、緑の党6.3%、人民党2.4%となっている。ここから導き出される予想獲得議席は、ケベック連合21~50、自由党23~46、保守党4~14、新民主党0~2、人民党0~1、緑の党0~0(定数78議席)である。
 世論調査は、ケベック州のフランコフォン有権者の間で、ケベック連合が自由党に決定的とも言える15ポイントのリードを保っていることを示した。その事実は、ケベック州の大多数を占めるフランス語地域において、ケベック連合が自由党に有意なリードを保っていることを意味する。保守党の基盤であるケベック市ですら、ケベック連合は保守党現職を脅かしている。
 保守党は歴史的にケベックで弱く、過去の選挙ではケベックを捨ててかかることもあった。今回は新民主党の不評とケベック連合の退潮につけ込み、ケベックで自由党に次ぐ2位につけていて、ケベックで重点的に運動したが、ケベック連合は民族主義的政策を訴え、終盤に追い上げた。
 シーア党首は、首相にふさわしい人物として8月末にはケベックで2位につけ、シン党首を13ポイント上回っていたが、今ではシン党首より4ポイント下の3位である。ケベックで支持拡大に失敗した保守党は、過半数獲得を絶望視されている。
 ブリティッシュコロンビアのローワー・メインランドも、自由党・新民主党・保守党が三つ巴の激戦を近年続けている。自由党が過半数を獲得するには、3つの主戦場の全てを制する必要がある。だが自由党が、ケベックでケベック連合に勝つのは非常に困難と言わざるを得ない。

 (2) 2期目に苦戦する首相
 再選に失敗した首相には、チャールズ・タッパー、アーサー・ミーエン、リチャード・ベネット、ジョン・ターナー、キム・キャンベルの5人がいるが、ベネット以外は総選挙の勝利なくして首相になった人たちだ。野党党首として政権奪取しながら、1期で退任したのはベネット首相だけである。ベネット首相は世界恐慌の直撃を受け、そこから立ち直るための政策をいくつか打ち出したが、裁判所から違憲判決を出され頓挫した。
 カナダ史の大多数の前例は、政権交代の機運に乗り政権奪取した野党党首はしばしば圧勝したが、再選時には失望を買い、総選挙で苦戦していることを示している。マッケンジー・キング首相は、1925年の2度目の総選挙で18議席減らし、第2党に転落したが、進歩党の閣外協力でかろうじて政権を維持した。ルイ・サン=ローラン首相は、1953年の2度目の総選挙で22議席減らした。ジョン・ディーフェンベーカー首相は1957年総選挙で政権奪取したが、過半数に足りなかったため、10か月後に再度総選挙を行い、265議席中208議席を獲得し圧勝した。だが次の1962年総選挙では92議席も減らし、過半数割れとなった。ブライアン・マルローニ首相は1984年総選挙で、282議席中211議席を獲得し圧勝したが、次の1988年総選挙では34議席減らした。ジャン・クレチエン首相は1993年総選挙で圧勝したが、次の1997年総選挙で19議席減らした。
 トルドー首相の父ピエール・トルドー首相も、2度目の総選挙は苦戦した。1972年総選挙で109議席を獲得し、107議席の進歩保守党に辛うじて勝利した。
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高橋幸二

10月21日(月)22時00分~22時40分 NHKBS1
国際報道2019「カナダ総選挙 焦点は温暖化対策」

「争点は温暖化対策」というのは間違いではないですが、自由党と保守党のどちらが勝ってもパイプライン計画はやらねばなりません。つまりトルドー首相は、温暖化対策として炭素税を誇っていますが、パイプライン計画をやめる考えはありません。それで緑の党・新民主党・ケベック連合の左翼諸党とは対立しています。
炭素税導入は石油産業の負担になり、保守党は産油地帯である中西部を根拠地にしていることから、立場上炭素税を容認できないという重要な論点について、NHKは触れていません。古い話ですがトルドー首相の父ピエール・トルドー首相は、「国家エネルギー計画」を導入し地下資源に課税したことがあり、つまり親子二代に渡って中西部に挑戦していることになります。
NHKがサスカチュワン州を「中部」と呼んだのは誤りで、正しくは中西部です。
by 高橋幸二 (2019-10-21 22:35)