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カナダ生まれのクルーズ氏、米大統領の資格が論争に [アメリカ]

 共和党の大統領予備選に出馬しているドナルド・トランプ氏は、1月6日付ワシントン・ポスト紙のインタビューで「共和党員は自問しなければならない。2年間も法廷闘争に拘束されるかもしれない候補者を望むのか、と。これは大きな問題だ」と述べ、対立候補であるテッド・クルーズ上院議員の立候補資格に疑問を投げかけた。
 クルーズ候補はカナダのカルガリーで、アメリカ市民の母と亡命キューバ人の父との間に生まれた。合衆国憲法第2条は、大統領は「生まれながらの市民(natural born citizen)」でなければならないと定めている。アメリカの連邦裁判所はこれまで、「生まれながらの市民」の定義を明確にしたことはなかった。そのため「アメリカ国内で生まれた」か、「アメリカ人の親から生まれた」か、その両方なのか、定義が曖昧にされてきたため、その解釈をめぐってしばしば候補者の資格が問題にされてきた。副大統領から第21代大統領に昇格したチェスター・アーサーは、バーモント州ではなくケベックの生まれだと疑われた。1964年に共和党の大統領候補となり落選したバリー・ゴールドウォーターは、州になる前のアリゾナ準州で生まれたことが問題視された。1968年に共和党の大統領予備選に立候補しようとしたジョージ・ロムニー(ミット・ロムニーの父)は、メキシコの生まれだった。2008年に共和党の大統領候補となり落選したジョン・マケイン上院議員は、パナマ運河地帯の米軍基地で生まれたため資格を問われた。記憶に新しいところでは2012年大統領選のとき、トランプ氏がバラク・オバマ候補は実はケニア生まれではないかと主張し、アメリカ生まれだと証明せよと要求する「バーサー運動」の先頭に立った。オバマ氏は出生証明書を公表したが、今度はそれが偽造だと主張する者も現れた。
 マケイン上院議員自身は6日にラジオで、クルーズ候補の資格について「私は憲法学者ではないが、調査するに値する」と語り、騒動に加わった。
 また大統領予備選に出馬している対立候補のランド・ポール上院議員は13日、ラジオ番組「FOXニュース」でこの問題について尋ねられると、こう答えた。
「疑問の余地なく、彼はカナダの首相になる資格がある。」
 彼は、自分は憲法の専門家ではないと断ったうえで、こう述べた。
「ある人々は、この国で生まれることが必要だと信じている。別の人々は、両親がアメリカ市民である限り、外国生まれでもかまわないと考えている。」
 彼はさらに、オバマ大統領は外国生まれではないかという「仮定」に基づき執拗に追及されたのに、クルーズ候補は外国生まれだという「事実」があるにもかかわらず、それほどの大問題になっていないというダブルスタンダードを指摘した。実際のところ、両者がどこの生まれだろうと、オバマ大統領の母もクルーズ候補の母もアメリカ市民なのだから、「生まれながらの市民」に該当すると大多数の憲法学者は主張している。なおクルーズ候補の父は、2005年にアメリカ市民となっている。
 オバマ大統領が執拗に追及されたのは、彼の母が左翼的で、父が黒人だったことが「アメリカらしくない」とされたことが原因と考えられる。そのオバマ大統領を「アメリカらしくない」と口を極めて非難し、難民に宗教テストを要求し、不法入国者の子に市民権を与えるなと主張した宗教右翼のクルーズ候補自身が、今度は「アメリカらしさ」を問われることになるとは皮肉なものである。

 クルーズ候補が子供のとき母が、彼のカナダ市民権のため手続きしなければならないと話していたため、彼はカナダ市民権を持っていないと思い込んでいた。ところがダラス・モーニング・ニュース紙が2013年8月、クルーズ上院議員はカナダ市民権を持つ二重国籍者だと暴露した。彼は2014年5月、カナダ市民権を放棄するとともに出生証明書を公表して、こう述べた。
「カナダに対抗するわけではないが、私は生まれながらのアメリカ人であり、合衆国上院議員である。私は、アメリカ人のみであるべきだと考えている。」
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビによる最近の世論調査によると、大統領予備選の支持率は、トップを独走していたトランプ候補の27%に対し、クルーズ候補が22%と追い上げている。指名争いは2月1日のアイオワ州が初戦となるが、そこは宗教右翼の影響力が大きく、アイオワ州に限るとクルーズ候補が24%と、トランプ候補の19%を上回る(モンマス大学の調査)。トランプ候補は、クルーズ候補が初戦に勝利し、その後勢いづくことを警戒して論争を仕掛けているものとみられる。

 なおカナダ首相は、総選挙で第一党になった党首が総督から指名される慣例になっており、特別の資格を要しないが、連邦議会議員でないと議場に入れないため、議員になるにはカナダ市民であることが必要となる。よってクルーズ候補は、カナダ市民権を復活させないかぎり首相にはなれない。
 カナダの現職首相では、マッケンジー・キング首相が1925年、アーサー・ミーエン首相が1921年と1926年、キム・キャンベル首相が1993年の総選挙で落選している。後の3例は敗北して政権を失ったが、キングの例では進歩党の閣外協力によって首相に再任されたため、議員が一人辞職して補選を行い、キング首相が議席を獲得した。
 カナダ憲政史において、初期の首相たちは多くが外国籍を保持していた。そもそも当時のカナダは、国ではなかった。二重国籍の最後の首相は、ジョン・ターナー(イギリス国籍、在任1984年6月~9月)である。カナダは、1982年憲法制定によって完全独立を果たしたと考えられており、それ以降では公職者の二重国籍はしばしば問題視された。自由党のステファン・ディオン元党首(現外務大臣)は、野党第一党党首に就任したときフランス国籍を放棄した。ミカエル・ジャン前総督も、就任するときフランス国籍を放棄した。新民主党は万年野党だが、トム・マルケア党首が党首選に出馬したときは、野党第一党だったため彼のフランス国籍が問題視されたものの、放棄していない。
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