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瀬戸際のハーパー首相に対策は? [2008年政治危機]

野党3党が連立協議を進めるなか、ハーパー政権は「倒閣を阻止するためあらゆる手段を講じる」と語ったが、ラジオでの野党批判以外に目立った活動はしていない。ここで、ハーパー首相が政権を死守するためのいくつかの方策について検討してみる。

●下院を解散し総選挙を実施
選挙に勝てる保証はなく、そもそも解散・総選挙に総督が勅許を与えるとは思えない。

●内閣不信任案採決を再度延期する
与党は野党の動議日程を変更できる。ただし再度の延期は間違いなく総督の介入を招くだろう。総督は首相に内閣信任投票を命じる可能性が高い。

●議会の停会
1月27日に予定されている予算案提出まで議会を停会し、内閣不信任を一時阻止する。だが内閣不信任案採決を遅らせたところで、有効な打開策が見つからなければただの時間稼ぎに終わる。また停会には総督の勅許が必要であり、それが得られる保証はない。

●野党下院議員を上院議員に指名する
下院勢力は保守党143議席、野党連合163議席なので、野党議員を20人ほど辞職させれば与野党の勢力は逆転する。そこで首相は野党下院議員を上院議員に指名するのだ。ただ現在、上院の空席は18議席しかない。ところが首相には、女王の同意を得て上院議席を8名拡大できるという憲法上の特権がある。この特権は、マルローニ首相によって歴史上ただ一度しか行使されたことがなく、1874年にはマッケンジー首相がビクトリア女王にこの特権の行使を拒否されている。
上院議員は首相の任命制で改選はなく、75歳定年制なので下院議員と異なり落選の恐怖におびえる心配はない。だが上院議員は実質的に権限のない名誉職であり、このために下院議員を辞職する者はほとんどいないだろう。上院議員で首相になったのはマッケンジー・ボーウェルだけである。奥の手を二重に行使し、梯子を2つかけても届かないようでは首相はいい笑い者になるだろう。

●ケベック連合を誘惑する
ケベックを国家と認める、ケベック民族と文化の重要性を憲法に盛り込むことを約束する、最高裁判事にケベック人を大量に指名することを約束するなどの譲歩により、ケベック連合を敵陣から自陣に寝返らせる。
これはもはや、何かのパロディとしか思えない。西部を基盤とする保守党は、歴史的にケベックと敵対してきた。マルローニ首相がかつてケベック民族主義者に譲歩し、1993年総選挙で保守党を破滅させたのはいまだ記憶に新しい。ハーパー首相が「自由党はカナダを分離主義者に売り渡した」と口を極めて非難し、ケベック連合も協定に調印した今となっては、ありえない話である。

●フラハティ財務相を解任し、野党に土下座する
野党を決定的に怒らせた政党助成金廃止の責任を、フラハティ財務相に押し付けてスケープゴートにし、ひたすら謝罪して慰撫に努める。
こんなことをすれば、今後誰もハーパー首相に忠実に働こうとは思わないだろう。政権を死守するためには、ここまでしなければならないのだろうか。ハーパー首相はまだ49歳、これから政権復帰のチャンスはいくらでもあり、ここまでやるよりむしろ、おとなしく野に下った方が今後のためになるのではないだろうか。連立協定調印前なら有効な案だったかもしれない。

●女王に総督を解任させる
これはハーパー首相の最終兵器である。ハーパー首相が総督に総辞職させられる前に機先を制し、女王に働きかけてミカエル・ジャン総督を解任し、停会か解散・総選挙を支持する別人を指名する。解任の理由は、ジャン総督が過去にケベック分離主義のシンパであったことなど、どうとでもつけられる。
このアイデアはオーストラリアで、ホイットラム首相が女王に働きかけてカー総督を解任させるのを恐れた総督が、ホイットラム首相を警告なしに解任した1975年憲法危機に由来するものである。しかしオーストラリア憲法危機と今回の政変には、重大な違いがある。オーストラリアではホイットラム政権は下院で過半数を制していたにもかかわらず、上院が予算の通過を拒否していた。だがハーパー政権は下院で少数であり、野党連合は過半数であり、そしてどちらの政権が適しているかを議会に諮っていない。
カナダ人でない女王にカナダ人の総督を解任させる行為は、国家の独立と君主制に対する重大な挑戦となろう。朝敵の汚名を着せられてもなお戦い続ける足利尊氏に、ハーパー首相はなりきれるだろうか。
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